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ー雪山ー110

 今日の和也は、ここで無駄話なんかしている場合じゃない。だから和也は新城に対して愛想笑いを浮かべ、何とか新城から切り抜けようとしているのだが、どうもすぐには離してくれそうな雰囲気ではない。  新城が話をしている間も、和也の方は望を待たせているためか、時間を気にして焦っているように見える。新城は春坂病院の元患者だから、邪険な態度も取れない。ここで病院のスタッフとしての印象を落としたくはない。だから和也は、大人しく新城の話を聞くしかなかった。  そう、この新城という男性は、つい最近春坂病院を退院したばかりの元患者だ。年は三十歳くらいという記憶があるが、年相応には見えず、モデルや若手俳優としても通用しそうな顔立ちの人物でもある。  和也は買い物した袋を手にして、さっさとこの場を立ち去りたい気分なのだが、新城の話がなかなか終わろうとしてくれない。  愛想笑いと生返事。  そろそろ愛想笑いに疲れた頃、突然和也は新城に背中を押され、店の外へ連れて行かれた。 「ちょ、え? どうしたんですか?」  今までは生返事で耐えようとしていた和也も、急に外に連れて行かれて焦りを感じていた。 「あの場所だと他の方に迷惑がかかるでしょう? だから、話をするなら外でと思いましてね」 「まぁ、そうなんだと思いますけど……。だけど、そろそろ私にも時間がありますので、この辺で失礼させてもらえないでしょうか?」  和也は営業スマイルを浮かべ、何とかその場から離れようとするが、今度は新城に腕を掴まれ、行く手を阻まれてしまう。  しかも、その力が本当に強い。  力があると思っていた和也さえも動けないほどだからだ。  一体なぜ、ここまでして和也を行かせないようにしているのか。その理由は謎だった。

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