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ー雪山ー111

 新城が本当に和也を執拗に引き留める理由が全く分からない。  もしかして、新城は和也のことが好きなのだろうか。  それなら、和也が新城に捕まってしまっている理由も理解できるような気がする。  和也が必死になって新城から逃げようと考えている間、新城は一旦和也の肩から手を離し、顎に手を当てて何かを考えているようだ。  そして和也に視線を向けて、 「君さ……ウチの病院に来ないか?」 「……へ!?」  和也は、新城が自分のことが好きだと思っていたが、それはどうやら違ったようだ。それはいいとして、今新城が言ったことは一体どういうことなのだろうか。  和也はその新城の言葉に驚いて目をぱちくりさせながら新城を見上げる。 「……はぁ!? いきなりそんなこと、こんな所で話すようなことじゃないでしょう?」 「まあ、確かにそうかもしれませんね……ですが、あなたとここで会ったのは運命かと思いまして。私の方はもうそのことについて院長と話しているのですが……」 「はぁ!?」  和也はまたもや驚いて声を上げる。  しかし、本当に冗談ではない。そんな話を裏で勝手に進められても困る。 「ウチの病院は隣町に新しくできたばかりの病院です。医療設備もちゃんと整っている所ですよ。確かに春坂病院でのコンビ制度もいいと思いますが、私の病院はごくごく普通のシステムです。あなたの活躍の場をもっと広げてみませんか?」  そう言われても、やはり望がいる病院の方が気に入っている和也。  だから春坂病院以外には行く気になれないのかもしれない。  だが、このまま和也が「うん」と言わなければ、新城はこの場から離れないだろう。  和也にとってはピンチなのかもしれない。  このピンチをどう切り抜けようかと考える。  新城は本当に和也を離すまいとして、しっかりと腕を掴んでいる。  きっと和也の背中には嫌な汗が流れているのだろう。  もし、ここで和也が大声を出したとしても、誰も助けてくれなさそうだ。もし和也が女性なら、大声を出せば助けてくれる人はいるかもしれないが、それはどう考えても男性の和也では無理だろう。

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