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ー波乱ー61

「それがお前の本音なんだな。 そんな事言って、自分がカッコいいとかって思ってねぇだろうな?」  望は和也の胸に人差し指を差して再び和也に問う。 「思ってなんかいねぇよ。 すっげー、必死さぁ……考えて考えた結果がそういう事なんだからさ……」  和也はそう自分の服を皺になるまでギュッと掴みながら答える。 「本当に今は……自分が何言ってるかさえも訳分からねぇよ……頭が回っているようで頭回っているようには思えないしよ。 本当に本当にどうしたらいいのか分からねぇのが本音だよ。 だけど! 患者さんの方が優先なのはわかってる。 こういう仕事に就いたのだから、人の命の重たさはどんだけ重たいか!? っていうのも分かっているつもりだ。 どんな簡単な手術だって、俺は仕事の方を優先する! そう決めてるって事なんだよ……」  望はその変わらない和也の言葉に息を吐くと、 「分かったよ……お前の心の中は俺達がこんなに言っても変わる事がねぇみたいだから、なら、もう、裕実の事は雄介に任せて、和也、行くぞ! 時間ねぇんだからな!」 「ああ」 「それと、手術室にお前を入れるけど、もし、心を乱したり、焦ったような様子を見せたら、直ぐに手術室から追い出すから覚悟しておけよ」 「ああ、分かってる……」 「じゃあ、俺等は行くぞ!」  和也は望にそう声を掛けられていたのだが裕実の方へと近付き、 「俺は行っちまうけど、本当に俺……お前の事が好きだからな……そこだけは誰にも譲る事はねぇからさ」  和也はそう言うと裕実の唇へと唇を重ねる。 「和也さん……僕は……和也さんが……はぁ……はぁ……戻って来るまで……っ……待ってますからね……」 「ああ……頑張ってくれよ……」  和也はそれだけ言うと今度は雄介の方に体ごと向けて、 「本当にもしもの事があったら、雄介! お願いします!」  そう言いながら雄介に向かって頭を下げる和也。 それから望と和也は急いで雄介の病室を後にする。  雄介は和也達が部屋を出て行ってしまった後に裕実が寝ているベッドへと近付き、 「なんやろ? お前と二人きりにされるのは初めてだったような気がすんねんけどなぁ」  雄介の方は頭の中で何か裕実に声を掛けて上げようと必死に考えて出た結果がそれだったのかもしれない。

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