874 / 957

ー波乱ー80

笑顔いっぱいに溢れさせ、和也は裕実の手を取ると、自分の車がある駐車場へと向かった。  そして二人は車に乗り込む。 「今日はどこに行きますか?」 「そんなの決まってるだろうが……」 「ですよねー」  裕実は正面を向いて笑顔になった。  だが、笑顔になったのも束の間、裕実は急に顔色を変え、 「和也! 聞いてくださいよ!」 「え? あ! まさか!? アイツに何かされたのか!?」  和也は裕実の言葉に慌てた様子で、裕実の方へ視線を向け、顔まで動かしてしまった。 「とりあえず、ちゃんと前を見て運転してくださいね……」  そう言いながら、裕実は和也の顔を両手で包み、正面へと向ける。 「とりあえず、新城先生には僕は何もされていませんから……安心してください」 「あ、ごめん。 お前が慌てたもんだから、そう思っちまったんだ。 で、そのお前がそんなに慌てた理由ってなんなんだ?」  颯斗に何もされていないと分かり、和也は安心したのか、いつもの口調に戻った。だが、次に裕実が言う言葉が、颯斗が手を出す以上に驚くことになるとは、まだ想像していないだろう。  裕実は、先程颯斗が誰かと電話で話していた内容をそのまま和也に伝えた。 「はぁ!? それ、マジか!?」 「嘘をついてどうするんですかー。 まぁ、その会話だけでは全く何の話かは分かりませんけど、新城先生がまだ和也を引き抜くのを諦めていないってことなんですかね?」 「なんだよ……裕実と一緒の部屋になったから、もう他の病院とは関わりがないと思ってたんだけど、実は違うのか? 俺はもう他の病院で働く気なんて全然ないのにさ……」 「でも……ですよ。 話を聞いていると、どうも違うみたいなんですよね? 何か、和也を引き抜く話だと辻褄が合わないって感じなんです」 「……へ? どういうことだ?」 「いや……僕もはっきりとは分かりませんが、ただ、そう感じただけです」 「……へ? そうなのか? ただの勘ってやつか? まぁ、とりあえずアイツにはまだ油断できないってことだけは間違いなさそうだな」 「そうですね……気をつけてくださいね」 「分かってる……お前のためにも俺は気をつけるよ」  和也はため息をつくと、車を走らせ続けた。  裕実の話を聞くと、どうやら颯斗はまだ和也を狙っているようだ。  謎の人物、新城颯斗。 和也にとって、彼が危険な人物であることは変わらない。  一難去ってまた一難。  この四人に試練がどれほど続くのかは、まだ誰にも分からない。 【ー波乱ー前編】→END NEXT→【ー波乱ー後編】

ともだちにシェアしよう!