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ー波乱ー106

 だが望はその雄介の言葉にひと息つくと、 「お前がやってみたい仕事に俺が口出すようなことじゃねぇよ。好きなことをトコトンやればいいしな……だが、怪我は絶対するな……って言ってるだけだ。前にお前が言ってただろ? 今、この時間にも助けを求めている人がいるって……。俺も似たような仕事をしてるんだ。助けられるなら、たくさんの人を救いたいって思ってるんだからな。じゃあさ、お前……例えば仕事を辞めて、平穏無事な仕事に就けるのか?」  雄介はその望からの問いに、視線を天井へと向けて考える。 「望と一緒に平穏無事に暮らせるんやったら、今の仕事を辞めても……」 「馬鹿かっ! お前はっ!」  望はそう言うと、雄介から離れて顔をじっと見つめる。 「お前さ……今まで、最短距離で今の地位まで上がってきてるんだろ? 消防士からレスキュー隊になれるって、普通はかなり大変なことなんだと思うぜ。それなのに、お前は合格することができた訳だ。それって、すごいことなんじゃねぇのか? だから、お前にはその才能があるって訳だろ? だから、助けを求めている人のために、お前は今の仕事を限界まで辞めちゃいけねぇんだよ。それに今の仕事、好きなんだろ? なら、なおさら辞めたら……ダメなんだって!」  望はそう訴えるように、雄介の腕を掴みながら説得するように言う。 「せやけど……望のこと、もう、ずっと悲しませるようなことしたくないし……」  その雄介の言葉に、望は顔をうつむけると、 「俺が、お前の仕事の邪魔なら……別れようか?」 「はぁ!? 何言うてんねん! それはさっき言ったばかりやろ? 俺はずっと望の側に居るってな……」 「だから、言ってんだ! 俺が仕事の邪魔になるんなら、別れるってな! 言うが、俺はお前のことが嫌いになって別れようって言ってるんじゃねぇんだからな。なら、このまま別れた方がいいんじゃねぇのか? 友達としているんだったら、お前の仕事の邪魔にはならねぇだろうが……」 「もう、ええ! しばらく考えさせてくれへんか? このままじゃ埒あかへんし……」  雄介はそう言うと、部屋着をさっさと着てベッドへ横になる。  望もそんな雄介の後にパジャマへと着替える。そして今日は雄介とは反対側を向いてしまう。  今日はどうして、こんなことになってしまったのだろうか? こんなことでは明日からの仕事に身が入らなそうだ。  もう体の方はとっくに雄介との話し合いで冷めてしまっていた。  望は窓の外に見える闇を見つめる。  例えくだらない喧嘩だとしても、それは恋人たちにとっては重要な話し合いの場でもある。だが今回の喧嘩は、なんとなくだが長引きそうな予感だ。

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