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ー波乱ー114

「焦ってるってことは、そういうことなんだよな? ま、いいや……」  望はそう言うと、さっきいたところへと戻っていく。 「裕実ー、どうなんだよー」 「ダメですよー! 今、望さんは家に戻るべきところじゃありませんから……」 「そう言うと思った……」  望はため息をつくと、もう望の後ろに来ていた和也の頬をつねる。 「この鈍感男!」 「痛いって! もー、今日はどうして俺にそんなに攻撃してくるかなー? あー、ある意味、望と一緒にならなくて良かったわぁ……こんなんじゃ、毎日のように俺の身が保たないだろうしな……」  和也はそう言うと、望に向かってアイコンタクトを送る。 「やっぱり、暴力を振るわない裕実が、俺からしたら一番ってことだな……」  和也はそう言うと、裕実の後ろから裕実を抱きしめる。 「和也……?」 「ん?」  裕実は後ろに来た和也の方に顔を向けて名前を呼ぶ。 「今の俺はもう裕実しか見てねぇんだよ」 「そうでした……」 「ならさ、今の望はどうしたらいいと思う?」 「それは、素直に雄介さんに謝った方がいいんだと思いますよ。やっぱり、一番好きな人と一緒にいられるのは幸せなことなんですからね」 「……だってさ。望は雄介のことが好きで一緒にいるんだろ? だから、そう簡単に『別れる』なんて言葉を口にすんじゃねぇよ。別れるのは一番簡単に逃げる方法なんだからな。好きなら好きで、ずっと側にいた方がいい。雄介もな……確かに一回、記憶喪失になった望から逃げたことはあったけど、アイツは本当に望のことが好きだから、今度からはどんな望でも受け入れるって決心してたからな。だから、もう望に何が起きようが、逃げようとしないだろ? 望だってそうだろ? 雄介が考えていること全部を受け入れられるくらい好きなんだから、雄介の意見も受け入れてやれよ。確かに今の望はプライベートより仕事を一番に考えてるのかもしれねぇけど、雄介は望のことが本当に大事で、今の仕事で命落とすかもしれねぇって考えてるんだ……もし本当に雄介が仕事で命を落として、望だけを残すことになっちまったらって思うと、急に不安になったんだろうよ。だから、雄介は本気で職業を変えたいと思ったんだと思うぜ。だから最中にも関わらず、望に相談してきたんじゃねぇのかな? それに、退院して久しぶりの仕事復帰になるわけだし、雄介の心の中で不安があったんじゃねぇの? 入院してたから、いろいろと考える時間はあったんだろうしな。だから、好きな望のためにも今の仕事を辞めたいって本気で思ってるんじゃねぇのかな?」

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