1009 / 1491
ー海上ー37
本当に望というのは、事をした後はこうやって冷たくなってしまうのだろうか? でも、望からしてみたら、百歩譲って雄介と一緒にお風呂に入ることを許したのだろう。
二人はお風呂から上がると、二階にある寝室へと向かう。
今の時間はもう既に夜中の二時になっていた。
「雄介……こんな時間に寝て、明日の朝起きられるのか?」
「もう、大丈夫やって。体が寝ないのに慣れておるしな。それに、今日の昼間たくさん寝ておったし……」
「そっか……雄介がしている仕事って、まぁ、俺の仕事と変わらない感じだもんな」
「まぁ、そういうことやんな。とりあえず、明日も何もなければええねんけど……」
そう言いながら、雄介は欠伸をしつつ望の体を抱きしめる。
その雄介の行動に、望は一瞬ムッとしたような表情をしたが、明日は雄介が一日いないことを思い出し、何も言わずそのままにしておいたようだ。
すると、雄介のリズム良く鳴っている鼓動が背中から伝わって聴こえてくる。人間って不思議なもので、その心臓の鼓動というのは安心できる音だ。きっと、お腹の中にいたときの記憶もあるのかもしれない。だから人間にとって心臓の音というのは心地よい音なのだろう。それもあってなのか、望はいつの間にか眠りに落ちていた。
翌朝、望が目を覚ました頃には、もう雄介の姿は隣にはなかった。
望は愛用の眼鏡をかけて時計を見ると、針はすでに十時半を指していた。
昨日の行為で怠さを感じながらも、望は体を起こして下へと向かう。
もちろん、下に降りてきても、もう雄介の気配はなく、望はただぼーっとリビングテーブルに腰を下ろした。
雄介のいない家。確かに慣れたと言えば慣れたが、やはりあの声を聞いていないと落ち着かないようだ。
何故だか、雄介からメールや電話が来ないと分かっていながらも、携帯の画面を覗いてしまう。
今日は日曜日。きっと世の恋人たちは待ち合わせをしてデートを楽しんでいる時間だろう。
そう考えると、望は切なくなってため息を吐いた。
誰もいない家には、その小さなため息さえも響き渡る。
望が何もせずに携帯の画面を眺めていると、突然携帯が震え、その音が部屋内に響き始める。
びっくりしながらも望は携帯を開いてみた。もしかしたら雄介かもしれない。そう思ったのだろう。いや、今日は仕事だから違うか……と思いながら開くと、メールの主はどうやら和也かららしい。
『今日、ドライブに行かないか? 俺の方も今日は裕実が仕事でいないからさ、暇なんだよな……』
ともだちにシェアしよう!