1017 / 1054

ー海上ー45

 すると、うどん屋が視界に入って来たようだ。 「望って、うどん平気なのか?」 「俺は平気だけどー」 「なら、うどんに決定!」  和也はそう言うと、うどん屋の駐車場へと車を止めた。  そのうどん屋は古民家を改造して作られたらしく、昔ながらの平屋の建物で、まるでタイムスリップしたような感じだ。そして、都会とは違い、ここでは時が止まっているようにも思える。店の前には水田が広がり、都会に住んでいる望や和也にとっては、こんな景色はここまで来なければ見られないだろう。  二人は店内に入り、店員さんに案内されて和室に腰を下ろした。店内の照明は蛍光灯ではなく、淡く光が弱い昔ながらの照明が使われている。 「東京にもこんな所があったんだな」 「ああ、そうみたいだな……何百年前の造りなんだろう?」 「分からねぇな……俺、歴史苦手だったしさ」 「でも、今でもこういう家が残ってるのって凄くねぇ?」 「確かにそうだよな。」  二人が店について語っていると、突然、和也のお腹が鳴った。 「お前なー!」 「仕方ねぇじゃんか……腹減ってんだからよ」 「お前にはデリカシーってもんがねぇのか?」 「お腹が空いた時にお腹が鳴るのは仕方ねぇだろ? 人間の自然現象なんだからさ」 「お前には緊張感っていうもんが無いから鳴るんだろうが……」 「全然緊張感のない場所で鳴ったって平気なんじゃねぇの?」  そう言われてしまえばお終いだが、和也は気にする様子もない。 「……ったく。さっさと食うぞ!」  二人はようやくメニューを頼んだ。  しばらくして、二人の前には注文した料理が運ばれてきた。二人は手を合わせ、「いただきます」と言って食べ始める。 「やっぱ、カップラーメンとは違うよな?」 「変なものと比較してんじゃねぇよ。カップラーメンとは全然別格なんだからな」 「じゃあ、素直に『美味い』って言えばいいんじゃねぇのか? 素直になる練習しろよ。別に俺たちには素直じゃなくてもいいけどさ……こういう所ではいいんじゃねぇのか?」 「ああ、そこは素直に美味いと思うよ」 「だよなー。久々に美味いうどん屋発見って感じだもんな」 「ああ……」  二人は食べ終わると、背もたれに寄り掛かる。 「結構、量あったな」 「俺の方は苦しいくらいだぜ」 「確かに、望にとっては量が多かったのかもな」

ともだちにシェアしよう!