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ー海上ー49

 よくもそんな恥ずかしい言葉をいとも簡単に言ってしまう和也に、望はため息を吐く。 「よく、そんな簡単にそんなことをお前は言えるよな?」 「当たり前じゃねぇか。好きなのは好きなんだからさ」 「好きっていう言葉はわかるけど、愛してるっていう言葉は好きよりも上の言葉だと思うんだけどなぁ。だから、なんていうのかな?やっぱ、愛してるって言葉というのは、そう簡単に言っちゃいけないって感じがするんだよな。あ、まぁ……つまりは……ここぞっていう時に使うっていうのかな?」  望はそう真剣に言ったつもりだったが、和也はそんな望にニヤケたような表情を向けていた。 「まさか、望にそんなこと言われるとは思ってなかったぜ。望も相当、雄介のことが好きなんだな。で、望はまだ雄介に好きって言葉は言ったことはあるけど、愛してるって言葉は言ったことがないってことなんだよな?しかし、意外だよなぁ、望が雄介に好きだって言ってるってことがさ」  和也は腕を組みながら、まだ望の言葉にクスクスと笑っている。  一方、望は自分が言いたいことを思い出したのか、再び顔を真っ赤にしていた。 「あー、もー!和也はどこまで俺の言葉を上手く拾うんだよ?」 「拾ってるっていうのか?自分で言ってるんだろ?」  和也は一旦間を置いてから、真剣な顔をして望の方に体と顔を向けた。 「あのなぁ、マジで言葉って大事なもんなんだぜ……そりゃ、当たり前なことかもしれねぇけど、言葉一つで人を傷つけることは簡単だし、励ますことだってできる。どんな時にどんな言葉を使うかで、相手にいろいろな影響を与えてしまうことになるんだからな。だから、本当に雄介のことが好きなら、たまには好きだって言葉も必要なんだって言ってんだ。人間、言葉に出さない限りは相手に想いが伝わらないってことだろ?望がいつまでも雄介に何も言わないでいたら、雄介だって寂しい思いをすることになるんだと思うぜ」 「だから、『好き』とはたまに言ってるから」 「それは本当か?」  和也は望に疑いの目を向けるが、望はそんな和也に気づき、真剣な瞳で返す。 「それは今では言うようにしてるからな」  和也はその真剣な望の瞳に安心したのか、車のシートに背中を預けて言った。 「望って本気で雄介のことが好きなんだな。まぁ、それが聞けて俺も安心できたっていうのかな?よくよく考えてみたらさ、やっぱ、俺と望が付き合わなくて良かったんじゃねぇのかなって思うよ。だってさ、俺とお前が付き合ったとしても、なんか望に『好き』って言われそうもなかったしな。ん、まぁ……望は少なくとも雄介と付き合い出してから変わってきた感じがするよな。それに、俺と付き合ったとしても、望をここまで変えることはできなかったのかもしれねぇしな」

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