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ー海上ー92

 確かに日本の医療発展のために勉強しに行くのは構わないのだが、やはり雄介と離れるのは憂鬱な所だ。  そう望がボーッと考え事をしている間に、車はどうやら港近くにある駐車場へと着く。  そして望はトランクからさっさと荷物を下ろすと、裕二にはまったくもって挨拶もせずに一人、船がある方へと向かってしまうのだ。  一方、和也の方は自分の荷物を下ろすと、裕二に向かい軽く頭だけを下げて望の後を追い掛ける。  和也は望へと追いつくと、 「お前……いいのか? 親父さんに挨拶しなくてさ」 「別に……いいんだよ。 だって、親父だって俺の性格知ってるんだろうしな」  そういう風に言う望なのだが、望の言葉に変に納得すると裕二もいなくなったわけで、いつもの和也へと戻り、 「なぁ、お前さぁ、車の中で暗い顔してたみたいだけど……何考えてたんだ?」  和也の方はそう言うと、望のことを覗き込むように言う。 「ん? あ、ああ……まぁ、ただ単に今回の勉強旅行は嫌だっただけさ。今の俺には一週間は長すぎるからな」 「望が一週間を長く感じる!? って、まさか雄介に会えないからじゃねぇよな?」 「……そのまさかに決まってるだろうが」  一応、間は置いたものの望にしては、和也からの問いに素直に答えたようにも思える。  その望の答えに対してか、和也は一瞬目を丸くしたのだが、顔を空の方へと向けて、 「やっぱり、望は雄介のおかげで変わったんだよな。 うん! 望の恋人が俺じゃなくて良かったって思うよ。 俺じゃあ望のこと変えることなんて出来なかったと思うしさ」  和也はその言葉を言った後に、望がいるであろう方向に視線を向けたのだが、望の方はどうやら先に行ってしまったらしく、和也が気付いた時には望の姿が前の方にあった。 「……って、人がせっかく真面目に言ってるのに、全く先に行きやがって……」  そう独り言を漏らすと、先に行ってしまっている望のことを追い掛ける。  それから二人は船の方へと乗り込むと、チケットに書いてある通りの部屋へと向かうのだ。 「なぁ、この船で行くのか? ってか、中はホテルみたいだよなぁ? これが俗に言われてる豪華客船っていうやつなのか?」  和也は船の中に入ると周りを眺めながら、望の後について部屋へと向かう。 「親父が手配してくれたんだからいいんだろ? それに、半分無理矢理強制的に行かせられてるんだからさ……これくらいの船でいいんじゃねぇのか? そうじゃねぇと割に合わないような気がするしな」 「ま、確かにそうだよなぁ」

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