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ー海上ー94
望の心の中は未だに曇ったままだ。いや、曇りというよりは今にも望の心には雨が降りそうな気分なのであろう。
そして望は再びため息を漏らす。
すると突然、船が爆発を起こし、船が揺れ始め、その揺れで望はバランスを崩し、地面へと尻もちを着く状態となってしまっていた。
陸から離れてまだ二十分位であろうか。一体、今この船の中で何が起きたのであろうか?
望は打ってしまったお尻をさすりながら立ち上がると、人々の叫びと共に乗客たちが一斉に甲板へと出てくる姿が見えてきた。
望は今まで水面の方に視線を向けていたのだが、客室がある方に視線を向けると、煙が上がって来ているようだ。
爆発事故では望は何もする事は出来ない。 ただの一般人として見ているしか出来ないだろう。
と、そんな時、
「望!」
今まで部屋に居たのかもしれない和也も外へと出て来たようだ。そして望を見つけると声を掛けて来る。
「和也! 一体、この船で何があったんだ?」
「俺にだって分からないよ……部屋でベッドに横になってたらいきなりドンって音が聴こえてきたんだからさぁ。 こっちはマジにビビった位なんだからよ。それで、船内にアナウンスが流れて、乗客はみんな甲板に出るように指示があったから出て来たわけだしさ……」
「そうだったのか。それより、怪我人の方は大丈夫なのかな?」
望はそう言うと今まで客室だった方を見つめる。
「どの場所でどんな状況なのか? だよな」
「まぁ、そうだな……でもさ、今はまだ俺たちに出来る事なんてないだろ? それに医療器具があるって訳じゃねぇんだからさ。しかも、応急処置だってその道具があるのはあの客室の方なんだしさ。ま、例えば爆発事故ならやけどしてる人がいるかもしれないんだろ? やっぱ、応急処置出来る位の物は持って来ておいた方がいいのかな?」
「……って、今の状況を考えろよ……俺たちだって今のこの状況で助かるかどうかっていうのがわかってねぇのに、他の人の為に応急処置の道具を客室に取りに行くのは、絶対に間違ってるだろうが……」
「でもさ、目の前に怪我人が居たら助けたいと思わないか?」
「じゃあ、望はまたあの爆発があった客室に戻って自分の命を落とす気なのかよっ! 今のこの状況に気づいていないのか!? このまま助けに来なかったら、俺たちだって命がヤバイんだぞっ! ここだっていつ危なくなるか分からないんだからなっ! 雄介を悲しませるような事は今は考えんじゃねぇよ!」
「でも……」
「今はまだ怪我人はいない……だから、大丈夫だからさ。 俺はもうただの一般人なんだからな……船の上でひたすら助けを待ってなきゃいけない身なんだからさ……だからもう客室に戻るって事は考えんじゃねぇぞ」
と和也が言った後、望の視点がある一点を見つめている姿が目に入ってくる。その視線の先にはどうやら今の爆発で怪我人が出てしまっているようだ。
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