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ー海上ー95

「ほら、やっぱり」 「そうだけどさ、客室の方に戻るのはもう絶対に無理だからっ! って言ってんだろうが……」  和也は今にも客室の方に向かいそうな望の事を必死になって体を使って止めているのだが、こういう時の力というのは本当にいつも以上のパワーが出るとでも言うのであろうか。 「でもな! 俺達以外で誰があの人達を助ける事が出来るんだっ! 和也! 離せ! 俺は助けにいくんだから!」 「マジで、止めろって! 俺は船でこんな事故に巻き込まれた事はねぇからあまり分からないんだけど、今は仮のボート出してみんな脱出しようとしてんだろ? あの怪我している人だってそのボートに乗せてやればきっと間に合うんだからさっ! 望が怪我人を見過ごせない気持ちは凄く分かるんだけど、今はマジでそれどころじゃねぇって言ってんだよ! 今の俺達の状況じゃ自分の命さえもいっぱいいっぱいなんだからな……って、おい!」  和也がフッと気付くと、今まで和也は望の体を必死になって抑えていたのだが、気付いた時にはもう望の姿は和也の目の前にはなかった。  和也はそんな望にため息を吐いて後ろの方に振り向くと、望の姿はその怪我人の近くにあった。  その望の姿に和也の方は呆れたようなため息を吐くと、望の姿を追う。どうやら一通り診察し終えた後にやっぱりという所であろうか、望は再びあの爆発があった客室の方に向かったようだ。  そんな望に和也も望の事を追い掛けて客室の方へと向かう。  和也は望よりは足が早い方だ。 和也は望へと追い付くと、望の肩を掴む。  今はもう客室がある廊下まで二人は来ていた。 「お前、さっき俺の話聞いてなかったのか!? 今はもう客室に行くのは危ないって言った筈じゃねぇか」 「さっきの怪我人は今どうにかしないと命に関わるかもしれねぇんだぞ!」 「あのさ……だから、さっきから言ってんだろ? 今は怪我人も大事なんだけど、俺達の命だって危ないんだって!」 「危険も何も……俺達の方は何も怪我なんかしてねぇじゃねぇか」 「お前ならそういうとこ分かってると思ったんだけどな。 目の前に怪我人が居て冷静じゃなくなってるのか? ってか、この船が爆発事故を起こしたって事はさ……船が沈むかもしれねぇんだぞ! もし船自体が沈んでしまったら、怪我人どころの騒ぎじゃねぇだろうが……俺達の命だって危ないってさっきから俺はそれを言ってんだからなっ!」  そう和也がいい終えた直後、船は音を立てながらゆっくりとだが傾き始める。  その傾きにバランスを崩す和也と望。  船が傾いてしまった事で、今まで床だった所が九十度傾き、今まで客室だったドアへと二人は叩きつけられてしまったようだ。

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