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ー崩落ー94
「……分かったよ。 和也に親父の事頼むな」
そう望は言うと、非常用出口の方へと向かう。
望が非常用出口の方へ向かうと、そこは頑丈に囲まれた空間だった。 トンネル内は火の海になっている中で、ここだけは周りの音さえ聞こえない場所でもある。
そこには、もう先に来ていた颯斗や裕実、他の医者たちも治療道具を使って治療を始めていたようだ。
「望さん?」
「あ、ああ……和也がな……俺がこっちに回った方がいいとか言ってたからな。 自分がこっちに来るよりかは、望がそっちに行って患者さんの治療に当たった方が効率がいいだろ? とか言ってな。 だから、和也に親父の事を任せて俺はこっちに来たっていう事だ」
「そうだったんですか。 なら、僕が新城先生と望さんのサポートに回りますよ」
「ああ、そうしてくれると助かるかな?」
そんな中、さっきまであんなに元気だった歩夢の姿が目に入る望。
望は歩夢の前へと腰を下ろし、
「さっきまでの元気はどうしたんだ?」
そう望は歩夢に優しく声を掛けるのだが、相変わらずの減らず口というのであろうか。
せっかく望が優しく声を掛けたはずだったのに、歩夢の方は望から視線を逸らし、
「僕だって、医者の息子なんだから、自分の事位自分で分かるんだからな。」
「それはどういう意味だ?」
望は歩夢の言葉に一歩近付くと、歩夢の頬を両手で包み、真剣な瞳で歩夢の視線に合わせる。
「僕の方は本当に大した事ないって言ってるの!」
そう大声で言ったわりには、歩夢は望から視線を逸らす為なのか頭を振って、望の腕までも振り解いてしまう。
「お前なぁ、さっき言ってたじゃねぇか……『頭打った』ってな。 それが大した事ない事なのか? お前も医者を目指すんだったら分かっている筈だ。 頭っていう所は一番やっかいな所だってな……」
「うるさいなー! 分かってるって言ってんだろ! だけど、さっき治療出来ないって言ってたのは兄さんじゃない?」
「さっきはそうだったのかもしれねぇが、今なら応急処置程度なら出来る。 それは、お前のおかげだろ? あの時、俺に治療道具が荷物置き場に行ってくれなかったら、ここにいる人達を助ける事は出来なかったんだからな。 後、治療する人間はお前だけになったんだから、わがままもそれまでにしとけよ。 俺が治療するって言ってんだから、俺の気が変わらないうちに大人しくしとけよ」
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