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ー過去ー50
「ありがとうな……俺のわがまま聞いてくれて」
「別に……そんなとこわがままな事じゃねぇだろー」
「ええねんって、そこは自分でわがままやって思うてんねんから」
「んー、ま、いっか……」
望は一応納得する。 そうだ、これ以上言い合っていても喧嘩の元になるだけだと思ったのであろう。
喧嘩というのはだいたい小さな言い合いから発展しエスカレートしてしまう場合が多々ある。 だが最終段階に行く前にどちらかが折れれば喧嘩または大事にはならない。 だから今の段階で望は先に折れたのであろう。
「ほんなら、望は誕生日に何が欲しい?」
雄介は望から離れると暗闇の天井を見上げる。
「特に欲しいもんはねぇかな?」
「何かないんか?」
「だから、無いんだって……。 あ、欲しい物? 物じゃあねぇんだけど……」
望はそこで一旦言葉を切ると、
「あー、だからだな……」
そう急に言葉を詰まらせてしまっているのだから、本当に望からしてみたら言うか言わないかっていうのを迷っているのであろう。
雄介からしてみたら、何にそんなに悩んでいるのかは分からないのだが、軽く横を向いて望の顔を覗き込む。
「まさか、望が欲しいもんって……俺の給料じゃ買えないもんなんか?」
「……へ?」
雄介からの言葉に望の方は声を裏返す。
「お前、それ、マジで聞いてんの? つーか、よーく考えてみろよ……お前の給料で買えないような高いもんってさ、まず、なんだよー」
雄介の天然ボケに望は突っ込むような質問をする。
「せやなぁ、高級腕時計とかか?」
その雄介の答えに望は軽く吹き出すと、
「そんなのは俺からしてみたら全くもって要らねぇもんだよ。 車に関しては親父が勝手に買ってくれたもんだし、まぁ、俺はブランド物には興味ねぇっていうのかな?」
「ほんなら、なんやねん……もったいぶらんと教えてぇな」
先を促すような雄介の言葉に望の方は何か思い出したのか、先程、雄介が望に質問してきた『誕生日のプレゼントには何がええ?』の言葉に望自身思い出したのか、
「あー、もー、それはだな……だから……」
暫く黙っていた望なのだが、何か吹っ切ったように、
「だからだな……ただ、雄介が無事に帰って来てくれたら、俺の方はそれだけで満足だからさ……それが、プレゼントでいいって言ってんだ」
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