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ー過去ー86

 和也はその裕実の言葉で半身を起こすと、裕実や望の予想に反して、優しくも力強く裕実の体を抱き締めた。 「ちょっと! 和也ー、病気なんじゃないんですか?」 「……へ?」  その裕実の言葉に驚いたのは、逆に和也の方だった。目をパチクリとさせながら、裕実をじっと見つめる。 「……ん? 和也……それって……?」 「え? へ? ちょ、俺の方が意味分からねぇんだけど……? 誰が病気だって?」 「和也が……?」  裕実の言葉に、和也は未だに首を傾げている。しかし、数分もしないうちに、和也はこの勘違いの意味に気づいたようだった。和也は人差し指を立てて、 「分かった! あー! そういう事だったんだな。お前と望が勘違いしてたってことか。だから、そう思ったって訳なんじゃねぇの?」  和也は納得した様子だったが、裕実の方はまだ理解できておらず、首を傾げたままだった。 「じゃあ、どういう事なんです?」 「多分、言ったらお前は怒るかもしんねぇんだけどさ……そこは怒らないで聞いてくれるか?」  和也の言葉に、裕実は更に首を傾げる。 「もう! 分かりましたよ! 言って下さい」 「だからだなぁ。今さっきの俺の行動っていうのはさ、俺からしてみたら、ある意味、俺の計画だったって訳……。そうそう! 裕実と二人きりになるためにな。だから、いつもとは逆の行動を取ったんだよ。そしたら、見事にお前と二人きりになれたって訳かな?」 「あ!」  ようやく和也の言葉で、裕実も今までの状況を理解したようだった。しかし、和也には「怒らないで」と言われているため、とりあえず怒らずに、呆れたような表情で和也を見上げる。 「とりあえず、後で望さんに謝っておいて下さいね。きっと望さん、今頃和也のことを心配してると思いますから……。だって、和也がそんな態度だったせいで、望さんは『和也さんが病気なんじゃないか?』って心配して下さったんですよ」 「分かったよ。明日な、明日。今はとりあえずお前とイチャイチャしてぇからな。それと、本当は俺、さっきから嫉妬してたんだぜ。裕実と望が仲良くしてる姿にな。だからさ、裕実のこと、たまには独占したい! って思っちまったんだよ。だから、こんな事しちまったんだからよ」  裕実は再び和也の言葉にため息を漏らすが、そのため息は複雑なものだった。  望には今日、雄介がいなくて寂しいのだろう。だが、確かに和也も、目の前に恋人がいるのにイチャイチャできず、寂しい思いをしていたのだから。

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