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ー過去ー87

「和也……分かりましたよ。本当、和也には参りましたから」 「『参りました』ってどういう意味だ? 今の場合には二つの意味になるんじゃねぇのか? 呆れた方の『参りました』と、負けた方の『参りました』とさ」 「それは……僕が和也に負けたっていう意味ですよ。和也って本当に頭の回転が速くて、人の心理を上手く利用することができる人なんだなーって感心してしまったくらいなんですから」 「まぁな……。確かに、望には今日雄介がいないから可哀想だったんだけどさ。俺の方も寂しかったんだよ。それに、最近二人だけの時間が減ってきたようにも思えるしな。今日は本当に俺、お前と二人きりで居たかったから、一芝居打ったって訳さ。本当に望には悪いとは思ってるけど、俺たちだって恋人同士なんだから、たまには二人でゆっくりしたい時だってあるんだよ。昼間は基本的に仕事で二人きりの時間なんか取れないだろ?」 「当たり前です!」 「あー! 耳元ででかい声で返事しなくても分かってるから。だから俺は仕事は仕事、プライベートはプライベートって分けてんだろうが……」 「確かにそうですけどね」 「現に俺は仕事中にお前に一回も手を出した事がねぇだろうが……」 「正確には、仕事中はあまり僕と和也が会える機会っていうのは少ないからだと思いますけどね」  裕実はクスクスと笑いながら和也へ突っ込む。そんな裕実の反応に、和也は転けそうになる。 「ま、まぁー、確かにそうなんだけどさぁ。でも、もし仕事中に裕実に会うことができても、俺は流石にお前に手を出す気はねぇよ。まぁ、休み時間っていうのは別だけどな。ってか、休み時間が重なったとしても、あんまりお前に手を出した記憶はねぇんだけどな?」 「ホント、和也って変なところ真面目ですよねぇ」 「ん? 俺って結構前から真面目な性格だと思うぜ」  そう胸を張って言う和也に、裕実はクスリと笑う。 「そこはやっぱりいつもの和也ですよねぇ。本当に僕、さっきまで和也の事を心配してたんですからー、もう二度とあんな事しないで下さいね。また、そんな事をしたら、ある童話の話と一緒になっちゃいますからね。なんでしたっけ?『狼と嘘つき少年』でしたっけ?」 「あー、確かにそんなようなタイトルの童話あったよな? そうそう! 毎日のように主人公である少年が『狼が出たー!』って騒いでて、その村人が騒ぐ姿を面白がって見てたら、段々とその少年が言ってる事が信用されなくなっちまって、最終的には本当に狼が村に現れてしまって村人に知らん振りをされてしまい、その少年は狼に食べられてしまったっていう話だったかな?」

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