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ー過去ー131

「あ、なるほどな……せやから、望は夜の仕事が少ないって訳なんやなぁ」 「そういう事。確かに他のスタッフさん達には悪いとは思ってるんだけどさ。親父がそうしてくれちゃってるから、それはそれでいいのかなぁって最近は思うようにしてるよ。本当はもっとこの仕事って過激なものなんだけどさ。他の所では三十六時間勤務とかが当たり前みたいだしよ」 「望の親ってどんだけお前に甘いねんなぁ?」 「そこは仕方ねぇんじゃねぇ? 俺が小さい頃は日本にいなかったんだからさ……だから、今甘えさせてくれてるんじゃねぇのかな?」  その望の言葉に、雄介は目を丸くする。珍しく素直な言葉を聞いたからかもしれない。 「な……最近の望、どないしたん?」 「何がだよ……」  そんな意味ありげな雄介の問いに、望は目をじっと座らせて雄介を見上げる。 「目を座らせたってことは、意味分かってんのに聞いてきてるやろ?」 「……分かったか。まぁな……」 「ホンマにどないしたん?」 「大したことじゃねぇよ。雄介に言われてることを日頃から練習するようにしてるってだけだな」  そう笑顔で言う望に、雄介は再び目を丸くする。だが、その表情はすぐに変わり、 「やっぱ、俺、望のことが好きやぁ!」  と言いながら、泡だらけの体で望を抱きしめる。  雄介の行動に、望は抵抗することなく、その瞬間を幸せそうな表情で受け止める。  昔は「幸せ」という言葉を知っているようで知らなかった望。小さい頃、親と離れて暮らしていた望は、幸せそうな家族を目にするたびに寂しさを感じ、「幸せ」という感情を抱いたことがなかった。大人になってからも、忙しい日々に追われるばかりで、「幸せ」を実感する余裕すらなかった。  だが今、雄介のおかげで、望は本当の意味で「幸せ」という感情を知ったのだろう。友人、恋人、家族に恵まれた今、この状況を「幸せ」と呼ばずして何と呼ぶのだろうか。  幸せに遠かった過去を乗り越え、今ではその言葉が望の心と体をやさしく包んでいる。 「あ、ああ……俺も……雄介のことが好きだぜ」  まだ小さな声ではあったが、望は自分なりに雄介へ想いを伝えた。  しかし、お風呂場という場所だけあって、シャワーやお湯がタイルを叩く音に紛れ、今の言葉は雄介には届いていなかったのかもしれない。

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