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ー過去ー150
望はそう言うと、薄暗い地下室から抜けて、普段は寝室としている部屋にある棚から一冊のアルバムを手にし、もう一度地下室へと戻ってきた。
望は雄介の隣へと腰を下ろし、そのアルバムの一ページ一ページを丁寧に捲っていく。
そこには小さい頃の望の写真が残っていたのだが、どの写真も笑顔ではないような気がするのは気のせいなのであろうか。
「何で、望は笑顔じゃなかったん?」
「そりゃあ、楽しくなかったからなんじゃねぇの? 幼稚園に上がる前まではまだ親たちはいたけど、親父なんかはいつも家にいなかったからな。いつも出掛ける時っていうのは、母親とばあちゃんだけだったからさ」
望はそう言いながら一ページ一ページ捲っていると、さっき望が言っていた写真が出てくる。
それを見た瞬間、雄介は声にならないような声を上げる。
「……!?」
そして声にならないような声を上げ、今度は興奮気味に、
「望! 望! これ、俺や! 俺!」
「……へ? まさか!? 本当にこれお前なのか?」
「ああ! ホンマやって! な、な、なー、分かるか? このおでこにある傷……」
雄介はそう言って軽く自分の前髪を上げると、僅かではあるのだが、縫ったような傷が雄介の額にあった。普段は髪の毛で隠れていて分からなかったのだが、髪の毛を上げると薄っすらと傷があるのが分かる。
「確かにあるな……」
「ほんで、この写真じゃ、頭に包帯巻いてるやろ?」
「ああ……」
「この傷な……親父のところに遊びに来た時の傷で、親父が病院に……?」
フッとそこで雄介は言葉を止めると、
「病院って……まさか!? 春坂病院に行ったってことなんか?」
「ちょっと待て……雄介、もっと、詳しくその話を聞かせてくれねぇか?」
「ああ、せやな……。とりあえずな、ウチの親父も俺が小さい頃に単身赴任しておって、東京にも来ておったんやけど、俺の実家は代々受け継がれてる家やから、やっぱ、そこは誰かに売るってこともできへんかったからなぁ。ほんで、一時期、親父は東京の方に行っておって、消防士やっておったんやけど、それで、たまに俺は親父がいる東京に遊びに行ってたって訳や……まぁ、俺小さかったし、東京は東京でもどの地域に遊びに行ってたなんてこと覚えておらんってか、知らんかったしな」
そう雄介が語っていると、もう一度、写真の方へと目を移す。
「……ってか、この消防署、春坂消防署やんか!」
「……ん? そうなのか?」
「そりゃ、もう、何年もあの消防署で働いてるんやから見覚えがあるって……。ってことは親父も春坂消防署で働いてたってことになるんやなぁ」
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