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ー過去ー152

 しかし、幼稚園に入る前の記憶とは曖昧なものだ。写真一枚見ても、自分が何をやっていたのかなんてことは思い出すことができないのだから。  幼稚園に上がってしまえば、印象に残っていた出来事は覚えていられるのだが、それ以外のことは全く思い出すことは不可能に近いのかもしれない。だからこそ、幼稚園くらいになっていた雄介は、そのことを覚えていたのだろう。  しかし、幼稚園の頃とはいえ、まさか雄介と出会っていたなんてことは思ってもいなかった。さっき、あの話がなかったら、ずっと知らないままだったのかもしれない。  フッと望が時計へと視線を向けると、一時半を指していた。  雄介が寝てしまってから約三十分。  確かに望はさっき、雄介に「四十五分は寝ろ」と言ったのだが、雄介を起こすかどうか迷っていた。  望は時計と雄介の顔を交互に見ながら、雄介の様子をうかがう。  雄介の仕事は二十四時間勤務で、夜寝られると言っても仮眠程度だろう。しかも寝られる日もあれば寝られない日もある。  そして、さっきの雄介の話を思い出すと、雄介は昨日、仕事で寝られなかったと言葉を濁していたようにも思える。  だから望は雄介のことを寝かせることにしたのだが、たった一時間くらいで、一日寝ていなかった体が復活するわけがない。それに、雄介の仕事というのは体を使う仕事で、疲れているだろうから。  望はもう一度、時計の方に視線を向けると、もうすぐ望が言った四十五分になろうとしている。  望は雄介を起こそうかどうか未だに迷っていると、いきなり部屋内にベルの音が鳴り響く。  望はその音で体をビクリとさせたが、雄介の方はその音で体を起こし、枕の下に置いておいた携帯を取り出すとアラームを止めた。  その雄介の行動に望は思いっきりため息を吐き出し、 「お前なぁ」  と呆れたように言った。 「そりゃなぁ、せっかくの望の誕生日やし、そんなに望のことを一人ぼっちにさせたくなかったしな……アラーム掛けておいたんや。ちなみに、この音やったら、必ず目覚ませそうやったしな」  確かに雄介が言っていることは分かるのだが、望はもう一度呆れたようなため息を漏らした。 「ほなら、もうええやろ?」 「ってか、本当にお前……体大丈夫なのかよ?」 「大丈夫やって……なんのために毎日のように鍛えてると思ってん? 体力の方は人一倍あると思ってんねんけどな」 「まぁ、な……」 「ホンマ……久しぶりやんなぁ。望のこと抱けるのは……こんな嬉しい時にゆっくり寝てる暇なんかないって。な、望……ちゃんと俺は約束守ったやろ?」 「ああ、まぁ……確かにそうだよな」 「ほんなら、今まで我慢しておったんやから」 「そんなこと、分かってる」

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