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ー天使ー94
「これで、お父さんから何かを言われることもなくなった訳だから、これからは雄ちゃんの自由にしていいと思うの。だから、雄ちゃんがやりたい職業をやってみたらどう? 本当に医者になりたいんなら、頑張ってみなさい」
流石は雄介の姉貴といったところだ。雄介のことをよく理解しているようだ。
「せやな……姉貴の言う通りや。確かに俺は小さい頃から親父に『消防士になれ』って言われ続けておったけど……もう、小さい頃から言われっぱなしで、本気で自分が歩みたい道を忘れておったわぁ。自分の意志で何かを決めるってことを怠っていたような気がするな。確かに、前に望にそんなこと言われた気ぃがするしな。せやから、望に『医者にならないか?』って言われた時に、なかなか自分の意志で決められなくて、何度望に怒られたことか。自分がやりたいんなら、やりたい! って言わなきゃアカンのやな」
「そういうことよ。確かに、雄ちゃんは昔っから意志が弱かったわよねぇ」
何かを思い出したのか、美里はクスクスと笑い始める。
「なんやねん! 急に笑いよって……」
「いやね……貴方の小さい頃のことを思い出しちゃって……」
美里の言葉に、雄介は首を傾げた。
雄介が『意志が弱い』ことに関して、小さい頃に何かあったのだろうか。美里には思い出があるようだが、雄介の方にはその記憶がないらしい。
「雄ちゃん! みんなの前で話していいのかしらー?」
「なんかあったか?」
「あったわよー。小学校の学芸会の時にね……」
その言葉を聞き、雄介もようやく思い出してきたようだ。突然、顔色を変え、慌てた様子で言った。
「アカン! アカン! それは絶対にアカン! それは絶対に言うたらアカンやつやからな!」
そう言いながら、美里の口を押さえ込む雄介。その時、望が診察を終えて美里の病室へ入ってきた。
部屋に入るや否や、望の視界に飛び込んできたのは、慌てた様子の雄介が、美里の口を押さえている姿だった。
「雄介……何してんだよ。桜井さんは病気なんだぞ、あんま暴れさせるなよ」
「あ、いや……そうやなくてな、姉貴が悪いんやで! 俺の過去を話そうとするから!」
「お前の過去のこと?」
望は何かを閃いたのか、珍しくベッドの端から美里の方へと身を乗り出した。
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