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ー天使ー120
そう言うと、望と和也は美里の病室を後にした。
「とりあえず、手術まであと三時間くらいか……」
「そうだな。 それまでに雄介も来てくれるといいんだけどな」
望が腕時計を確認しながら歩いていると、前方から裕二が歩いてくるのが見えた。
「あ、望。ちょうどいいところにいたね」
どうやら裕二は望を探していたらしい。その声に気づき、望は仕方なく足を止める。
そして、少し面倒くさそうな口調で答えた。
「なんでしょうか、院長……」
「今日、君は手術を担当するんだよね?」
「ええ、一応……」
病院の廊下という場所柄か、望は裕二に対して敬語で話しているようだった。
「とりあえず、動揺しないようにね」
裕二が意味深にそう言った。その言葉に望は眉をひそめる。
「……どういう意味ですか? 『動揺するな』って」
「それは君が一番分かっていることなんじゃないのかな?」
裕二の言葉に、望と和也は顔を見合わせた。裕二が何を言いたいのか、二人には察しがついたようだ。
「大丈夫です。今はプライベートのことは二の次ですから」
望は毅然とした口調でそう答えるが、裕二は微かに笑いながら言葉を重ねた。
「そう言葉にするのは簡単だけど、君の本心はどうかな? それは君自身しか分からないことだろうね」
その指摘に、望は驚いた表情を浮かべ、言葉を失った。その横で和也が顔を手で押さえ、小声で呟く。
「やっぱりか……」
「ほら、君の顔に書いてあるよ。『雄介のことが心配だ』ってね」
裕二が追い打ちをかけると、望は苛立ったように反論した。
「心配してないわけがないだろ! 動揺してないわけもない! だけど、今は雄介のことよりも美里さんの方が大事なんだ。 だから、どうにか平静を保とうとしてるのに……親父も和也も俺の気持ちを揺さぶってくるんだよ!」
望が感情を露わにすると、裕二と和也はほぼ同時にため息をついた。
「君が本音を隠すから、こうなるんだよ」
「院長の言う通りだな」
和也も同意する。
「だけど……ここで俺が雄介のことを心配したところでどうにもならないだろ。俺には俺の仕事があるんだ。美里さんの手術に集中しないといけない。それ以外に何があるんだよ!」
望は声を荒げた後、深く息を吐き、頭を振った。そして、低い声で言葉を継ぐ。
「……もう、何も言わないでくれ。手術の時間まで、一人にさせてほしい。それまでに、気持ちを切り替えて仕事モードに戻すからさ」
その言葉に、裕二と和也は一瞬だけ視線を交わし、それ以上何も言わずにうなずいた。
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