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ー天使ー144
「そうですね……」
三人は望の車に乗り込み、琉斗の幼稚園へと向かった。
幼稚園の運動場に到着すると、和也が望たちを見つけて手を振ってくる。
和也は運動場の保護者席の中でも、子どもたちが一番よく見える特等席を確保していた。
「お前なぁ、よくこんな席取れたな」
「俺の運動神経が良かったのさぁ。まぁ、最初は外で待たされてたんだけどな。暫くして放送が入って、真っ先にこの席を取ったんだよなぁ」
和也が得意げに話すのを聞きながら、望は軽くため息をつく。
「ま、ええやんかぁ。俺らがこんなとこに来る機会なんて滅多に無いんやから、特等席で見るのも悪くないやろ」
雄介はそう言いながら、シートの上に腰を下ろした。
「雄ちゃんねぇ、『ええんやない』って言うのはいいけど、貴方が前の方に座ったら吉良先生とか見えなくなっちゃうじゃないの? 貴方は背が高いんだから、後ろの方に座ってちょうだいね」
「へいへい、分かってますよ」
美里に注意されると、雄介はシートの後ろの方へと移動していく。
九時になると開会式が始まり、その後はまず年中組による徒競走が行われた。続いて、年長組の徒競走がスタートする。
年長組には琉斗がいる。
次々と園児たちが走っていく中、ついに琉斗の番が来た。琉斗は一生懸命に走り、雄介たちが座っている席の前を駆け抜けていく。
最初は二位だったが、美里の姿を見つけた琉斗は一気にラストスパートをかけた。そして、最後のコーナーで一位に躍り出ると、そのままトップでゴールを果たした。
「琉斗って、足が速いんだなぁ」
「速いのよ。特に私の顔を見かけるとね」
「やっぱ、琉斗はお母さんのことが好きなんですね」
「でもな……今のうちだけやで。男の子が『お母さん、お母さん』って言うんは……そのうちお母さんの手から離れてしまうんやからなぁ」
「そんなことは分かってるわよ。むしろ、いつまでも『お母さん、お母さん』って言ってくっついてこられても困るしね」
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