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ー天使ー145
「せやんな……」
「今だけよ、今だけ。確かに息子だから可愛いんだけど、私はいつまでも琉斗を甘えさせるつもりはないわよ」
「まぁな」
美里はこれまで雄介の成長を見てきたからだろうか。すでに男の子を育てるための計画がしっかりできているようだ。
「それに、私には旦那がいないから、父親役もやらなきゃならないしね」
「子供育てるのって大変なんやな」
「そうよー! 子供を育てるのは大変なのよー。貴方に琉斗を預けたけど、貴方の場合は琉斗のことを見ているだけで、躾とか何もしてないんでしょ? 悪いことをしたら叱ったり、いいことをしたら褒めてあげたりしなきゃならないのよ」
「だけどなぁ、琉斗はいい子やったし、怒るって言ってもそんなことをしたことなかったしなぁ。それに、他人の子供を叱るって……やってもええもんかと思うんや」
「それは雄ちゃんが優しいからなのかしらね?でも、今度からは叱るべき時にはちゃんと叱ってね。今はまだいいけど、これからは男の子を育てるのは大変なんだから!」
「分かっておるって……」
雄介はどうやら美里には頭が上がらないらしい。完全に押されてしまっているのが見て取れる。
そんな中、会場内に音楽が流れてきた。
その音楽は幼稚園らしい可愛らしいもので、園児たちが音楽に合わせて運動場に入場してくる。
「次はお遊戯みたいだな」
和也がプログラムを見ながら言う。
「そうやったんかぁ」
雄介はそう答えると、運動場の方に目を向けた。
そこに現れたのは琉斗だった。
音楽に合わせ、一生懸命踊る琉斗の姿に雄介の視線は釘付けになっていた。
雄介はこれまで琉斗の成長を見てきた。ハイハイができるようになり、一人歩きができるようになったことも知っている。ついこの間までそんなことをしていたと思っていたが、今では体を自由に動かし、一生懸命踊っている。その姿を見つめる雄介の心情は、いつの間にか父親のような視点になっているのかもしれない。
そんな琉斗の成長を見つめながら、雄介はふと呟いた。
「ホンマ、子供の成長って早いんやな」
小さな声で呟いたその言葉は、運動場に響く歓声の中に消え、誰の耳にも届くことはなかった。
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