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11章ー決心ー1
ーー春。
春というのは、別れもあれば出会いもある季節だ。
学校の卒業、会社の転勤と、別れ方は人それぞれだが、逆に入学や入社といった出会いもある。
桜が散り、暖かい緑の風が体を包む頃、学生たちは新しい制服に身を包み、入学式へと向かうだろう。
新しい洋服を着て、親に手を引かれながら笑顔で学校へ向かう子供たち。
緊張した面持ちで会社へ向かう新入社員たち。
そんな中、ある人物が学校の門の前で佇んでいた。
その人物は、学校の門の前で軽く笑みを浮かべると、気持ちを切り替えたのか力強い眼差しをしながら、門の中へと一歩ずつ足を踏み入れる。
キャンパスの前まで来たその人物は足を止め、目の前にそびえる建物を見上げた。
「今日から、俺は自分が見つけた道を歩み始めるんやな。しっかし、あれやなぁ、まさか、この俺がホンマに大学の医学部に行けるなんて思うてもなかったわぁ」
そう、雄介は独り言を漏らしながら、キャンパス内へ歩き始めた。
学校の入学式はすでに終わっていた。そして今日から、この学校で講義や授業が始まる。
思い返せば、約三ヶ月前のことだ。
雄介は久しぶりに受験生の気分を味わった。
願書の提出から始まり、一次試験の学力テスト。それに合格すると、二次試験では面接が待っていた。それらを雄介はこなしてきた。
そして、時は過ぎ、今こうして大学のキャンパスの前に立っている。
確かに、半年ほど前に望と散々話し合った。いや、もっと前から話し合っていたのかもしれない。その甲斐あって、雄介は自分の決めた道を歩むことを決意した。医者になるために望と一緒に勉強を続けてきた。だが、まさか本当に医学部へ行けるとは思いもしなかった。
医学部の合格発表は約一ヶ月前だった。
その日、雄介の合格発表に付き添ったのは恋人である望だけではなかった。何故か、関係のない和也や裕実、そして雄介の姉である美里まで一緒に来ていた。
まだコートが必要な寒い季節のことだ。
雄介はみんなの前で合格発表の掲示板を見上げる。一人で一生懸命、自分の受験番号と掲示された番号を照らし合わせていると、肩越しに顔を覗かせ、一緒に確認してくれる人物がいた。
雄介は頼んだわけではないが、その人物も同じように受験票の番号と掲示された合格番号を見比べている。
その時、雄介の後ろにいた人物が大声を上げた。
「あった! あった! ちょ、あった! な、なぁー、雄介! 見てみろよ! あれ、お前の番号だろ?」
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