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ー決心ー38
歩夢のその言葉に、雄介はまだ理解できずにいるようだ。
「分からない? 僕が雄兄さんを呼び出しただけなんだよねぇ」
「……はぁ!?」
もう、いい加減にしてほしいと雄介は思う。
そう、歩夢は雄介を自分のところに呼び寄せるためにわざわざ一芝居しただけだったのだから。
駅に到着すると、雄介は家へと向かい始める。しかも、さっき歩夢に騙されたのだから、もう歩夢の方には振り向かない覚悟で歩いていた。その後ろを、歩夢は雄介を追いかけるようについていく。
「もしさぁ、本当に僕が痴漢に遭ったら、雄兄さんが助けに来てくれるのは分かったけどね。まぁ、僕が痴漢に遭ったら、僕の場合、声を上げるから平気だけどさぁ」
今のことで雄介は歩夢に腹を立てているようで、完全に無視を決め込み、さっきよりも足早に家へと向かう。
しかし、歩夢は本当に雄介を手に入れるためなら卑怯な手を使ってくる。いや、むしろ雄介からしてみれば、歩夢は嫌われるようなことばかりしているように思えてならない。
雄介が先を歩いていると、急に歩夢の気配がなくなった。背後を振り向くと、今まで雄介の後ろを歩いていた歩夢の姿が消えている。
さっきまで雄介の家に行くと言っていた歩夢がいなくなったことで、さすがに心配になった雄介。
「また、さっきみたいに歩夢の罠ならいいのだが」と思いながら、雄介は横道を見てみるが、そこにも歩夢の気配も姿もない。
雄介が首を傾げていると、目の前を黒色のワゴンが通り過ぎていく。
そのワゴン車の後部座席にある窓から何かが飛んできて、雄介の足元に落ちる。
雄介はその落ちてきた物を拾い上げると、そこには『春坂病院のキャラクターのストラップ』があった。
「『HARUSAKA HOSPITAL』のストラップ? ……これって望の病院かぁ?」
それを見た瞬間、雄介は顔を上げ、さっき行ってしまった車のナンバーを頭の中に叩き込むと、急いで望の携帯に連絡をした。だが、まだ仕事中の望が電話に出ることはなかった。
残る手段は、直接裕二に電話をすることだった。
雄介は裕二の携帯に電話をかけたが、こちらも出る気配がない。仕方なく、雄介は走って春坂病院へ向かうことにした。
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