1688 / 2073

ー決心ー86

「な、和也……この事故があったの何時だか分かるか?」 「いやぁ? 情報がねぇから分からねぇよ」 「でもさぁ、俺等が帰ろうとしてた時間だよな?」 「確か、そうだな」  望と和也は一段落したところで話をしている。  既に時刻は夜の九時を過ぎていた。 「あ、いや……気のせいならいいんだけど、さっきっから、胸騒ぎがして仕方がないんだよなぁ。今までにこんなことはなかったんだけど……」 「胸騒ぎ? まさか、病気とかか?」  そう和也はふざけて言ったのだが、どうやら望は本気らしく、 「あのなぁ、こんな時にふざけている場合じゃねぇだろうが……!」  と望は和也に突っ込みを入れる。しかし、何かを思い出したのか、望の顔が青ざめる。 「もしかして!? 雄介は? 雄介がその電車に乗ってて事故に巻き込まれたとか!?」 「え!? そうなのか!? と、とりあえず……今はまだ患者さんが来る気配がないから、雄介に電話してみろよ! それで、繋がれば、雄介が無事かどうか位は分かるだろ?」 「あ、ああ! そうだな!」  望は一旦、自分たちの部屋へと向かい、スーツの内ポケットから携帯を取り出し雄介へ電話を掛ける。  だが、何回かのコールの後に留守番電話サービスに繋がってしまう。  その後も望は何度も雄介に電話を掛けたが、雄介が電話に出る気配はなかった。  そして、その頃、雄介は望の思った通りだったのかもしれない。雄介は『電車の追突脱線事故』に巻き込まれていたのだ。  この事故が起きたのは夕方の帰宅ラッシュが始まった頃。乗客をたくさん乗せた上り列車と下り列車の衝突事故であった。先頭車両は二台とも先頭部分が潰れ、両車両とも二両目以降も脱線していた。  事故から数時間が経っているにも関わらず、救急車のサイレンは鳴り響き、レスキュー隊も対応に追われている。  街中にある線路は電車だけではなく、脱線によって周辺の住宅にも被害を及ぼしており、この事故により被害者は相当数いるようだ。  そう、雄介はこの電車に乗っていた。先頭車両ではなかったものの、雄介はこの事故に巻き込まれていたのだ。

ともだちにシェアしよう!