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ー決心ー91

 だが、手は届いても腕の力で自分の体を上げることができなければ意味はない。  流石はまだ高校生というのか、まだ筋肉がきちんとでき上がっていないというのか、それとも、ただ単に歩夢に力がないというのであろうか。歩夢だけの腕の力では、その窓からの脱出は不可能そうだ。 「ダメ……上がれない……」 「そないにお前は力がないん?」 「ま、仕方ないよ。勉強ばっかりしているんだから、体力には自信なかったしね。こうなったら、助けが来るまで待つしかないっしょー」 「確かに、そうやねんけどなぁ」  しかし、事故からだいぶ経っているというのに、雄介たちが乗っている車両にはなかなか助けが来ないというのはどういうことなんだろうか。確かに、これだけの大事故で救助する側に人が足りないのは分かるのだが、各車両に何人か助けに来てもおかしくはないと思う。  雄介は溜め息をつき、椅子へと腰を下ろす。今は、歩夢が上にある天井から脱出できないのであれば、その場で助けをただひたすら待つしかないのだから。その椅子というのはさっきまで座席として使われていたものだが、今は車両が横転していて、椅子のエアコン部分と言った方がいいのかもしれない。  雄介は少しぼーっとしながら何かを考えていると、この車両でも少しずつ意識を取り戻してきた人たちがいるのか、少しずつ周りがざわつき始めてきている。  意識が戻ってきているのなら助けたい気持ちは湧いてくる雄介。だが右手は怪我をしていて使えない。どう考えても片手が使えないと何もできないといったところだろうか。 「やっぱ、片手じゃアカンか……」  唯一の通信手段である携帯を何度も眺める雄介。壊れてしまった物が復活できるわけもなく、ただただ時間が過ぎていくだけだ。  周りにいる乗客も携帯が壊れてしまった乗客がほとんどのようだ。いや、全滅に近い状態で壊れてしまっているのかもしれない。そう、雄介と同じように携帯の画面だけを眺めたり、ある者は壊れてしまった携帯を投げ出したりしているのだから。 「携帯も使えへんのか……」  携帯も使えないとなると、今は時間さえ分からない状態でもある。携帯には必ずと言っていいほど、今は時計がついている。だいたいの人間は時計などを付けずに携帯の時計で時刻を確かめるという時代になってきているのだから、今は時計をつけている人間は少ないのかもしれない。

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