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ー決心ー96

 望は二人に責められ、眉間に皺を寄せていると、 「とりあえず、雄介の方を先に処置してやってさ、雄介には墓参りに行かせてやれよ」 「それは別に構わねぇんだけどさ。雄介なんかより重症者や重傷者がいた場合には後回しにすることだけは頭に入れておいてくれよ」  望はそう言いながら、雄介の怪我の応急処置を施していく。 「後はレントゲンを撮って診てみないと、どれくらい酷いのか分からないからな」  その時、ふと気付くと、雄介が割った窓から冷たいものが落ちてくる。さっきまで月さえ覗かせていた空だったが、どうやら雨粒が落ちてきたようだ。  これではヘリコプターでの救助は無理だろう。  望はいつも白衣の胸ポケットに入れている院内専用のPHSを取り出すと、レスキュー隊へ連絡を入れる。  だが、どうやら救助がまだ間に合っていないようで、望たちがいる車両までは救助が来ないらしい。 「救助がまだ間に合ってないんだってさぁ。それじゃあ、待つしかねぇな。とりあえず、ここの車両には、診たところ重症者や重傷者はいないからさ」 「せやけど、雨が降ってきてるんやで。確かに今は雨が降り始めたばっかりやから平気やねんけど……。上はたったこれしか開いてないんやけどな……もし、このまま雨が降り続いて、もっと大雨でも降り始めてまったら、この車両の中に水が溜まっていって、二次被害になるかもしれへんで……」  その雄介の言葉で、この車内にいつまでも残っているわけにはいかないということに、ここにいる三人は気付いたのかもしれない。三人は顔を青ざめさせたのだから。  今、望たちが乗っている車両は、車両自体が横転している状態だ。普通、車両というのは窓やドアが横にきているものだが、今は上下に窓がきてしまっていた。そして先程、雄介が今上にきている窓を割ってしまっていたのだから、現在は雨粒が車内へと入り込んでいる状態でもある。

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