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ー平和ー35

 望は急に椅子から立ち上がると、声を荒らげ、 「もう! 俺は愛とか恋とかって話はうんざりなんだよ! 本当にもう俺は恋人は雄介だけで十分なんだ! 雄介のことでも色々とあるっていうのに、今度はお前が出てきて、俺のことを好きとか愛してる! とかって言うんじゃねぇ! それに今はそんなことに構っている暇はねぇんだからよ! 本当に歩夢にせよ、朔望にせよ、いい加減にしてくれ!」  そう望は朔望のことを睨みつける。   そんな望に朔望が動じる訳もなく、朔望は淡々と話を始める。 「そうか……。 兄さんは今まで誰かに愛されたことがなかったんだっけ? 雄介さんは兄さんのことを愛してくれているって訳だ。 兄さんが親父達に愛された事がないって思うのは、兄さんが悪いんだからね。 僕達が小さい頃、親父はアメリカに住む友人に『アメリカで勉強しないか?』って誘われていた時、兄さんは婆ちゃんから離れなくって、それで親父は兄さんのことをアメリカに連れて行くのを諦めたんだよ。 だから、兄さんは親父達に愛された覚えがないのは当たり前。 兄さんは愛に飢えていたんだろうね? 確かに兄さんが婆ちゃんのことを好いていたのは、婆ちゃんが兄さんに愛情を注いでくれていたからだと思うよ。 兄さんは子供ながらに気付いていたのかもしれないね。 父さんと母さんは毎日のように忙しそうにしていたから……。 兄さんは父さん達に付いて行くのを嫌がった。 どうせ、一緒に付いて行っても親父達は忙しくて構ってもらえないことを知っていたからだと思う」  朔望から過去の家族のことについて聞かされ、何故かイラついている望。  望は朔望の前に向かうと、 「もう、いい! 今日は帰ってくれよ!」  そして望は朔望のことを睨み付ける。 「何、急にイラついているのかな? やっぱ、本当のことを言われたから?」  更に望は朔望に睨みをきかせると、朔望の腕を両手で掴み、 「やっぱり、僕の予想は当たっていたみたいだね。 どうやら、今日は兄さんの機嫌が悪いみたいだから、帰るよ。 でも、これからはずっと一緒に居られるようになったから、僕の方としては嬉しいんだけどね」  朔望は望の手により部屋から追い出されてしまう。  望は朔望のことを部屋から追い出し終えると、今までの怒りを抑えようとしているのか、肩で息をしながら椅子へと腰を下ろす。

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