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ー平和ー36
そんな望に、和也は切なそうな瞳で見つめていた。
流石の和也も、こんな空気の中では望に掛けられる言葉が出てこないようだ。例えば、いつものように明るく望に近付いても、確実に怒られるだけだ。かといって、この空気で望たち家族の話をしても、望の機嫌をさらに損なってしまうのは間違いない。だから、いくら和也でも、今の望に声を掛けるわけにはいかないのだろう。
と、そんな時、ノックの音が聞こえてくる。
まさか、また何かを言いに朔望が戻ってきたのかと、和也はドアの方へと視線を送り、そこを見つめていると、部屋へと入ってきたのは裕実だった。
裕実はドアを開けると、いつもの部屋の空気が違うことに気付いたのか、目を丸くしながら和也の方へと視線を合わせ、
「どうしたんですか? もしかして、和也と望さんが喧嘩したとか?」
裕実はまだ朔望の存在を知らないのだから、当然、和也と望の間で何かあったと思うだろう。
和也は裕実の存在に気付くと、裕実の方へと向かい、望に聞こえないような声で裕実に今まであったことを話し始める。
「……そういうことだったんですか」
「そういうこと……だから、今の望は物凄く機嫌が悪いんだよ」
「でも、それなら、尚更、望さんを助けてあげなきゃならないんじゃないんでしょうか?」
「そうしてやりてぇんだけど、俺には今の望にどうしてやったらいいのかが分からないんだよなぁ。そんなことを言うお前は何か考えがあるのか?」
「あ、えっと……ごめんなさい……思いつきません!」
「だよなぁ」
「あ、でも、提案かどうかは分かりませんが、たまにはみんなで食事に行きません? もちろん! 雄介さんも呼んで……みんなで外食にしましょうよ!」
「……へ?」
裕実からのいきなりの外食しようという提案に、和也は声を裏返す。
なぜ、いきなり裕実はそんなことを言ったのだろうか。流石の和也も、たまに裕実の言動が分からない時がある。
「……へ? なんでみんなで外食?」
「だって、いっつも望さん家じゃないですかー。だから、そう毎回では悪いですし、たまには外食して、僕たちがおごるってのはどうですかね?」
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