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ー平和ー97

 確かに望が自分の父親を嫌う理由が、望自身にも分かっていないようだ。  自分の性格なのだろうか。 それとも、今まで自分のことを放っておかれたからなのだろうか。  だが、今朔望に言われて、望の過去が明らかになってきている。 いや、前に歩夢にも言われたような気もするのだが、歩夢は望より十歳も下で、朔望や望の小さい頃の話を知らない為か、真実味が湧かなかったのかもしれない。  やはり朔望は望の双子の弟で、とりあえず望が物心付くまでは一緒に居たのだから、朔望が言っていることの方がより真実味があるということだろう。  望がもう物心付いた時には、自分の家には祖父と祖母しかいなかったのは望自身も覚えているようなのだが、その前の記憶はない。 いや、誰もそんな小さい頃の記憶なんて覚えてはいないだろう。  だから、望自身がアメリカに行く父親に付いて行かなかった理由が分からないのかもしれない。  確かに父親は医者で忙しい毎日を送っていて、望や朔望に構わなかったのかもしれないのだが、たったそれだけの理由で望は祖母達の元に残ると言っていたのだろうか。  そこまでは、タイムマシンにでも乗って過去に行かない限り分からないことであろう。  望は軽く息を吐き、窓の外を眺める。  いつも居る病院ではあるのだが、今はいつもとは違う景色と感じるのは気のせいだろうか。  いつもなら毎日忙しい日々を送り、これほどゆっくり窓の外を眺めることはなかったのかもしれない。  春の暖かい風が木々を揺らし、それに乗って雲もゆっくりと動いていく。 「最近、忙しかったからな……ゆっくり休めってことなんだろうな。 でも、仕事は出来なくても、勉強はしなくちゃならねぇよな」  さっきの朔望の話だと、それぞれ三人兄弟には病院の後を継がせるようなことを言っていた。  望は島に開く予定の診療所。 朔望は春坂病院。 歩夢はこの前、父親が買収した病院。  確かに、ここまで息子達の為に考えてくれる父親はいないのかもしれない。

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