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ー希望ー8

 雄介がそう独り言を漏らしていると、未だに資料等々に視線を向けながら望が雄介へと声を掛ける。 「そろそろ行くぞー」  いきなり声を掛けられ、雄介は焦ったように、 「あ、ああ……そ、そうやな……もう、そないな時間になっとったんか」 「まぁ、そういうことだ!」  望は手に持っていた資料をまとめると、席を立ち上がるのだが、急に望は体を揺らつかせ、後ろに倒れそうなところを雄介が支える。 「望! 大丈夫かぁ!?」 「あ、ああ……大丈夫だ……。 ちょっと、頭がボッーとしちまっただけだし……」 「望は頑張り過ぎやって、せやから、一気に疲れが出てくるんやと思うんやけどな。 しかも、さっき俺等を怒った時に頭に血が登ったんやろ?」  雄介は望の額に手を当て、 「熱は無いみたいやから、今のはただの貧血やと思うねんけどな。 それに望は痩せとるし、普段、ホンマ忙しそうにしておったしな。 もし、心配やったら、望の親父のところに行ってみた方がええのかもしれへんな……」  さっきまで雄介は望に怒られていたのだが、プライベートと仕事とを分けようと努力している雄介。 きっと今はプライベートのことを心配して、望のことを気遣っているのであろう。 「あ、ああ……とりあえず俺の方は大丈夫だ。 雄介の言う通り、ただの貧血だと思うしな……あ、いや……最近、すいみ……」  望はそこまで言いかけたのだが、それを言ってしまえば更に雄介が心配するだろうと思い、どうやら言葉を止めてしまったようだ。 「……睡眠!?」  言葉を止めてしまっていても、そこまで言っていれば誰が聞いても『睡眠』という単語が出てくるであろう。 「睡眠、取れてないんか?」 「あ、いや……」  そう言いよどむ望。 だが、そんな望に雄介は、 「睡眠不足やってことやな。 そないに睡眠が取れない程、心配なこととかが沢山あるってことなんか?」 「あ、いや……ない……」  そう答える望なのだが、その雄介の質問に対して完全に視線を逸らしてしまっているので、嘘だというのは一目瞭然だ。 「それじゃあ、何で睡眠が取れてないん?」 「もう、だから、平気だって言ってんだろ!」  望は雄介の腕から離れると、怒った風に立ち上がってしまう。 「平気とか言うてるけど……。 今、一瞬倒れそうになった原因が睡眠不足なんか? 貧血なんか? 分からへんと、他の病気の可能性やってあるかもしれへんのやぞ! 望は医者やから、その辺は自分でも分かるやろ? って、もし、他の病気やったらどないすんねんって……」

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