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ー希望ー79
でも、それだけ今まで必死になって仕事をしていたっていう証拠でもある。
「流石にこの汚れたままの服じゃあ、中での仕事はできへんし、こりゃ即クリーニング行きやな」
そう屋上にあるヘリポートで独り言を漏らす雄介。そして雄介は再び、飛行機が墜落した現場の方を見つめる。
さっき春坂病院の屋上を通過して行った消防庁のヘリはとっくにない。もう上空にはその赤いヘリコプターの姿はないのだから。きっと現場へと着陸することができたのであろう。そこにホッとした様子で雄介は現場の山の方を見つめる。
その頃、未だに現場にいる望達は、さっき雄介に言われた通りに現場にヘリコプターが着くのを待っていた。もちろん、さっき雄介にも電話で言った通り、ヘリコプターで事故に遭った裕実をレスキュー隊に助けてもらい、今は和也の腕の中にいる。
確かに雄介が言っていた通り、裕実の頭部からは出血していて、今すぐにでも手術を行わなければ命の危機がある。だが、雄介がしてくれた応急処置のおかげで、最小限の出血に今は抑えられているようで、あと少しはどうにか保ちそうだ。このままヘリコプターが来て、すぐに春坂病院へと向かえば、確実に間に合うだろう。
そう思っていると、さっきの電話で雄介が消防庁に手配したという赤いヘリコプターが現場へと到着してくれたようだ。さすがに人がいるということもあってか、気持ち的に少し離れた場所に着陸してくれたようにも思える。
ヘリコプターが着陸した直後、砂埃が現場へと舞うが、次の瞬間には中からどうやら人が降りてきてくれたようだ。その人物はゆっくりと望達がいるところへとスーツ姿でやって来る。そして完全に望達のところにまで来ると、望の方へと手を差し伸べ、
「初めまして……消防庁の方で働いております。桜井雄一郎と言います」
その人物がそう言っている間に、望の方も手を差し伸べようとしたのだが、自己紹介された直後、望の方は何かピンと来たのであろうか。手を差し伸べたと同時に、その人物の方へと顔を上げる。
名前とその人物の顔で望の表情が気持ち的に笑顔になる。そう、その人物というのはどこかしら望の恋人である雄介に似ているからだ。多分、その人物は雄介の父親であろう。顔も似ていれば、苗字は一緒でもあるし、名前の方も「ゆう」という言葉が一緒なのだから。きっともう少ししたら、雄介の方も雄一郎さんと、一緒で凛々しくてかっこいいおじ様になるのかもしれないという想像をしたのかもしれない。
とりあえず自己紹介はそこそこに、早速、雄介が手配し、雄介の父親が乗って来た消防庁のヘリコプターへと乗り込む望達。
さすがにヘリコプターの中では羽音などが聴こえてきても、ヘッドフォンを通じて会話はできるのだからなのか、ちょこっとだけ望と雄一郎の間で会話があったようだ。たった数千メートルの距離を数分で春坂病院にあるヘリポートへと辿り着く。そして一番最初にヘリポートへと降り立ったのは、裕実のことを抱き抱えた和也で、和也は簡単に雄一郎の方へと頭を下げると、急いで病院内へと足を向けるのだ。もちろん、望の方も簡単に雄一郎の方へと頭を下げるのだった。開いているヘリコプターのドアの向こうに雄介からもチラッと雄一郎の姿が見えたような気がしたのだが、望が降りると、すぐにヘリコプターのドアは閉められ、行ってしまった。
望はそこにいた雄介に声を掛けると、すぐに病院内へと入って行く。きっと望の中では、裕実の手術が先ということなのだろう。そして望はいつものように裕実の手術を終わらせると、やっとホッとすることができたのか、和也が裕実の病室の方へと向かうのを見送った後、今度は雄介の方に電話をするのだ。
きっと、まだ雄介の方も病院の方に残っているだろう。そう思ったから、裕二から今借りている携帯の方に連絡を入れながら、病院の廊下を雄介や裕実の部屋へと向かって歩き始める。
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