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ー希望ー78

「それなら良かったけどな。裕実は大丈夫か?俺が患者さんと下山しようとした時には、もう既に頭からかなり出血してたような気がしたんやけど」 「とりあえず今のところは大丈夫だけど、このまま出血が続けば危ないのは確かだ……ただ、ドクターヘリが無い今、現場では何もできないのが現実だよな」 「それなら、大丈夫やで!さっきな、救急車に乗った時、知り合いがおってな。消防庁のヘリを出してもらうように頼んどいたんや。それで、望たちはヘリに乗って戻ってきたらええんと違ゃう?」 「確かにドクターヘリは、この辺りじゃウチの病院にしかないからな。流石に歩いて下山する訳にもいかないし、分かった。とりあえず消防庁のヘリを待つことにするよ」 「ああ……」  雄介は電話を切り、裕二に再び頭を下げると院長室を出た。  院長室を出たものの、この状況ではやるべき仕事も無く、手持ち無沙汰になる。今日の午後は診察が予定されていたが、きっと誰かが代わりに対応してくれているだろう。とはいえ、部屋に戻って他の仕事をする気にもなれなかった。望たちが戻ってくるまで、落ち着いて仕事をするのは無理だ。  自然と足は屋上へと向かっていた。望のことだから、ヘリの着陸場所は春坂病院の屋上ヘリポートになるに違いない。  現場に置いてきた裕実のことが気がかりだった。明らかに、先に連れてきた患者より裕実の方が重傷であるのは間違いない。一応、応急処置は施したものの、それはあくまで応急処置でしかない。本格的な治療が必要で、出血も続いている状態では、いつ容態が悪化するか分からないのだ。  雄介が現場を離れてから、既に一時間以上が経過していた。  その時、上空を赤いヘリコプターが通過する音が聞こえた。  雄介が見上げると、それは消防庁の証しである赤いヘリコプターだった。ヘリは一直線に先ほど雄介が居た山の方向へ向かっていく。 「よかった……」  雄介は小さく息を吐き、屋上のコンクリートの縁に腰を下ろした。そこでようやく、自分の服が泥や血で汚れていることに気付いた。

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