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ー希望ー86

 まさか雄介の父親が居るとは思っていなかったのであろう。だからなのか、二人の間には沈黙が流れてしまう。  雄介も雄介の父親も、何を話したらいいのか、どうしたらいいのか迷っているのかもしれない。  そんな中、雄介は気になったことを美里へと問うのだ。 「今回は何で、あの飛行機に乗っておったん?」 「お父さんは東京に居るからいつでも会えるんだけど、お母さんに暫く会ってなかったでしょ? だから、会いに行こうとあの飛行機に乗ったら、事故に巻き込まれてしまったって訳よ」 「そうやったんか……」  それが気になっただけで、雄介は他に聞きたいことはなく、再び病室内に沈黙が流れてしまったようだ。  そんな中、望が美里の病室に現れ、美里と琉斗以外の知らない人物に歩みを止めてしまう。しかも、空気が悪いことにも気付いたのかもしれない。望はそこで動きを止めてしまったのだから。  雄介はそんな望の気配に気付き、 「望……?」 「ああ、おう……」  望はそう答えるだけで、この重たい空気にどうしたらいいのか戸惑ってしまったようだ。この見えない重たい空気に、望は完全に飲まれてしまっているということだろう。  きっと美里や琉斗だけなら、こんな空気はないのかもしれない。だが、今はその二人の他にもう一人居て、その男性が居るだけでいつもと空気が違うのも、望には分かってしまったのだから病室に入る前に足を止めてしまったということだ。  そんな中、まだ幼い琉斗はそんな空気を読める訳もなく足を抱え、 「足が痛ーい」  と訴えるのだ。 「……へ? ああ……」  その琉斗の訴えに雄介は琉斗の背丈に合わせ座ると、 「鎮痛効果がなくなってもうたんやな。ちょっと待っててなぁ、痛め止めの注射したるし、それとも注射が嫌やったら薬にすんねんけど……? どないする?」 「注射は嫌だから、薬でいい!」 「せやな……やっぱり、琉斗ぐらいの年やと注射は嫌いやんなぁ」  雄介は琉斗に笑顔を見せると、琉斗の頭を撫で、その場に立ち上がるのだ。 「ほな、薬持ってくるし、待っておって……」  そう言うと雄介は病室を出て行こうとしたのだが、望は病室を出て行こうとする雄介の腕を引き、小さな声で、 「俺が行って来るよ」 「ええって……俺、あの空気に耐えられそうもないし」 「そんなこと言ったら、俺の方が居心地悪いじゃねぇか」 「ほなら、とりあえず望も行くか?」 「ああ、そうだな」  そう言うと、二人は美里の病室を出て行く。

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