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十四章ー信頼ー1

 青い空、青い海、水平線の向こうには入道雲。都会に住んでいては見ることのできないような風景に和む。  聞こえてくるのは車のエンジン音や人々の騒がしい話し声ではなく、カモメや波音といった自然が奏でる音だけだ。  今までの忙しい日々が嘘のように、望たちはのんびりとした時を過ごしているのかもしれない。  都会の大病院とは違い、今回、望たちが訪れたのは小さな島の診療所だ。そして今回はたった四人で切り盛りすることになり、診療所の責任者は望である。  確かに、都会の病院に比べたら忙しくもなく、かなり暇なのかもしれない。しかし、二十四時間三百六十五日待機していなければならないというのは大変なことだろう。だが、望たちからすれば、二十四時間三百六十五日待機すること自体は全く問題ではないらしい。この四人は恋人同士であり、同時に友人でもあるからだ。恋人同士で毎日のように一緒にいられるのは良いことかもしれないが、その分、様々な問題が発生する可能性もある。ある意味、問題は山積みといえる。  平和そうに見えても、完全な平和とはいかないだろう。人間、生きている間には試練がたくさんある。それを仲間や恋人と協力して解決していくのが人生だ。ただ平穏な日々を送るだけの人生でも良いかもしれないが、たった一回の人生なのだから、時には悩み、それを乗り越えることでこそ、「一生懸命生きたい」と思えるのではないだろうか。  この島の人口は三百人程度だ。  島の中には一軒のコンビニと一軒の雑貨屋があり、それ以外は住宅街となっている。  きっと、この島に住む人たちの多くは農業や漁業に関わり、生計を立てているのだろう。実際、小さな港には漁船があり、小さな漁港では笑顔が素敵な女性や、大声を毎日のように出し過ぎて声が掠れてしまっている男性の姿が見られる。  望たちが働く診療所の場所は、住宅街からやや離れた海の近くにある。  住居は二階建てで、一階にリビングや風呂があり、二階に和也と裕実、望と雄介の部屋がある家だ。そして、その隣に診療所がある。診療所と住居は廊下で繋がっていた。  この四人が島に来たのは約一週間前のことだ。  だが、いまだに診療所に訪れる島の住人はおらず、望たちはただひたすら診療所で何もせずに待つ日々を送っていた。病気の人がいないだけなのか、それともよそ者を嫌う住人たちがなかなか足を運んでくれないのかもしれない。  診療所は依然として開店休業状態で、望はため息を漏らす。 「平和なのはいいんだけどさ……暇すぎやしないか? これなら、春坂病院で忙しく働いていた方が自分のためにもなるんだけどなぁ?」 「ま、確かにそうなんだけどさ……逆に患者さんが来ないってことは、いいことなんじゃねぇの? ここの住人っていうのは健康ってことになるんだからさぁ。それに都会と違って住民もそんなにいないわけだし、まぁ、患者が来たとしても一週間に一人とか二人とかになるんじゃねぇのかな?」  その和也の分析に、望は納得したのか、 「まぁ、確かにそうだよな。ま、いいや……とりあえず、もう昼にするか?」  望は診療所の椅子から立ち上がると、敷居の反対側にいる裕実や雄介にも声を掛ける。 「そろそろ、飯にしないか?」 「せやな……」  雄介も望の言葉にゆっくりと椅子から腰を上げる。そして望は、診療所のドアに掛けてある札を『休憩中/御用の方は隣にある住居まで』にし、部屋と診療所の間にあるロッカールームに行って白衣をロッカーへしまうと、隣の住居へと移動するのだった。

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