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ー信頼ー40
「そういうこっちゃ……」
雄介は立ち上がって体を伸ばし、望はリモコンでテレビの電源を切る。二人はそのまま自室へ向かい、部屋の電気を消してベッドへと横になった。
窓は閉まっているにも関わらず、外からは規則正しく波打つ音が聞こえてくる。それは都会では耳にすることのない、自然が作り出す音だった。
自然の音は心地よいものだ。風、波、虫の声。どれも人間が手を加えずとも、そこに存在する。しかし、それは時に人間に牙をむくこともある。台風や地震といった自然災害は、人間の力では抗えない脅威だ。毎年、多くの人が命を落とすことを考えれば、自然がいかに強大かがわかる。それでも普段の自然は穏やかで、人の心を癒してくれる存在でもある。
そんな自然の音に包まれながら、二人は目を閉じて一日の疲れを癒していく。
――しかし、望はふと目を開け、天井を見上げながらぽつりと問いかけた。
「あのさ、雄介は医者になってこの島に来て、良かったと思ってるのか?」
突拍子もない質問に、雄介は一瞬きょとんとする。しかしすぐに天井を見上げながら、静かに答えた。
「まだ、ここに来て一週間しか経ってへんけど……今のところは良かったって思うとるよ」
「……今のところ?」
「せやな。まだ一週間しか経ってへんし、これから何が起こるかはわからんやろ。嫌なことだってあるかもしれん。せやから、今そう答えるのが正解なんちゃうかな」
雄介の真面目な答えに、望は思わずクスリと笑ってしまう。
「そこ、笑うとこ違うやん……」
「あー、ごめん、ごめん。いや、雄介も『今を生きる』ってタイプなんだなって思ってさ。さっき裕実とその話をしてたんだよ。裕実いわく、和也も『今を生きる』タイプらしいんだ」
「……って、それが普通ちゃうんか? 過去は終わったことやし、未来はわからんことやしな。もしかしたら明日にでも事故に遭って死んでしまうかもしれへん。せやから、今をどう生きるかが大事なんやないか?」
雄介の言葉に、望は少し黙り込んで考え込む。
「まぁ、そうなんだろうけどさ。俺、そういうことを意識したことって今までなかったんだよな」
「明日や明後日のことを考えるより、今を楽しんだ方がええやろ? 特に、こうやって二人だけの時間やったらなおさらな」
雄介の何気ない言葉に、望は不意を突かれたように赤面する。
「あ、ああ……へ?」
どうやら雄介は深い意図があって言ったわけではないようだ。しかし望は、その言葉を意識せずにはいられなかったらしい。顔を赤くしながら、視線を宙に彷徨わせる様子が、どこかぎこちない。
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