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序章《ソフィアside》2
予定より1日遅れて雅彦がスイスに到着した。
「《ソフィア!雅!》」
「《パパー》」
毎日のように雅彦の写真や動画を見ているのもあるけれど、会うたびに全力で遊んでくれる雅彦に雅は懐いていた。
「《ソフィア。遅れてしまってすまない。これ》」
「《プレゼント?》」
「《あぁ。撮影でセブ島に行ったときにこの赤いスカーフを見つけて。絶対君に似合うと思って買っておいたんだ》」
「《ありがとう》」
この日、私の誕生日じゃなければ。
雅彦は無理をして一人でスイス来ることなかったのに。
―…私の、せい
レストランで化粧室へ向かうために、少しだけだけ席を外した。
雅が私の後を追ってきているのも知らずに。
そのとき雅はギャングにぶつかり、銃口を向けられ、気付いた時には雅彦が雅を庇って撃たれた瞬間だった。
「《雅彦!雅彦!》」
「《雅…大丈夫?よかった…雅。怖い思いをさせてしまったね。もう大丈夫だからね》」
雅彦は震える雅を笑顔で抱きしめて、そしてもう力が入らなくなったのかしばらくして床に倒れこんでしまった。
小刻みな荒い呼吸と、止まらない赤い血液。
「《雅彦っ!》」
「《ソ…フィア…》」
一目見ただけで分かる。
もう彼は助からないほど血が止まらない。
「《…エリックを…頼…む…》」
「《分かった。分かったわ。お願い死なないで。誰か早く血を止めて》」
本当は今日言いたかったの。
皆で一緒に暮らしましょうって。
復讐の道具にはなりたくないから、時間をかけて私たち本当の家族になりましょうって。
叔母様以上にあなたが大切で、愛していると気付いたから。
―…伝えられず、彼は逝ってしまった
「《三科雅彦…死んでくれて嬉しいわ》」
「《叔母様…》」
私が悲しんでいるのに、
雅が悲しんでいるのに、
―…冷血な目で喜ぶの?
「《護衛もつけずに歩き回るなんてバカな男。ギャングに感謝ね》」
「《なぜ、それを…》」
護衛をつけていなかったことをどうして知っているの?
私は何も言っていないわ。
「《優秀なギャングもいるのね。高額だけど》」
本能で、この人が仕掛けたことだったのだと悟った。
私の愛する夫は、雅を庇って死んだのに。
私の誕生日じゃなければ、あの日あの場所に雅彦が来ることは無かったのに。
「《あなたもやっと解放されたのね。わたしの可愛いソフィア》」
今なら理解できる。
百合亜様の気持ちを。
ネグレクトだと偽りの報告をして息子と離ればなれになり、愛する息子が死んだと嘘の写真を見せられたら―…
私だって狂ってしまう。
コルビナ…あなたは平気でそんな惨いことをしたのですね…
―…この瞬間、私はコルビナの洗脳が解けた
「《叔母様…》」
「《どうしたのソフィア?》」
「《あなたとの縁を切らせていただきます。二度と顔も見たくない。ソフィアは死んだと思ってください。大嫌いです。さようなら》」
私を愛しているコルビナと絶縁した。
もう二度と会わないように。
「《テリー、私たちは身分を隠して日本で暮らす。あなたはどうする?私の執事を辞めても構わないわよ》」
「《もちろん、一生ソフィア様に着いていきます》」
「《ありがとう》」
雅彦がいつか移住したいと言っていた日本で暮らそう。
仕事も辞めて、ひっそりと、雅の幸せだけを考えて。
あなたの遺した大切な雅の幸せだけを考えて生きていこう。
―…愛しているわ、雅彦
【to be continued】
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