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序章《ソフィアside》1

「《あの…すみません。これ落としましたよ?》」 ある男性のサングラスが落ちたので拾って声をかけた。 「《あぁ、ありがとう》」 その綺麗なオッドアイと紫色の髪と笑顔に見惚れてしまった。 一目惚れだった。 「《あの人は誰?》」 「《あぁ、アメリカ大陸では有名な三科雅彦というモデルですよ》」 「《日本人?》」 「《母親が日本人で、父親はアメリカ人だと聞いています》」 私が16の時、撮影で欧州に来ていたサングラスの落とし主である20歳の三科雅彦というモデルに目を奪われた。 その日からずっと雑誌で雅彦を見かける度に心が疼いていた。 だから、 「《お嬢さん、抜け出しませんか?》」 4年後、偶然会えたあの満月の夜。 あの時と同じサングラスを外し、そう話しかけられてとても嬉しかったの。 あなたとの子供を身籠れて嬉しかった。 叔母様も喜んでくれると思った。 「《あなた…あの踊り子の子供…》」 「《お久しぶりですね、マダム》」 「《雅彦…叔母を知っているの?》」 「《ソフィア…この男はダメよ。ジェフの愛人の子である…この男だけは》」 叔母様が憎んでいた、ジェフ様の妾の子。 それが雅彦だった。 「《酷いわ雅彦、私を騙したのね》」 「《ごめん、ソフィア…》」  事実を知り毎日涙が止まらない私の隣で、ずっとそれしか言わない雅彦。 私はあなたを愛している。 だから知りたかった。 叔母様をそこまで嫌う理由を。 復讐の理由を。 「《死ぬわ。この子を道連れに》」 「《ソフィア、止めなさい》」 「《なら、理由を話して!!》」 雅彦はため息をついて、しばらくして沈黙を破る。 そして語り始めた。 叔母様が、ネグレクトだと偽りの報告をして雅彦と百合亜様を離ればなれにしたこと。 独房にいる百合亜様に、雅彦が自殺したと偽りの写真を見せて精神を崩壊させ、死に追いやったこと。 すべてを。 「《俺には母が全てだった。だから母を精神的に苦しめて死に追いやった君の叔母に復讐をすることしか考えていなかった。ずっと、そのためだけに生きてきた》」 「《そんな―…叔母様がそんなことするはずない》」 叔母様は洗脳が得意で、今まで数々の人を洗脳し人生を狂わせてきたと。 「《あの女が愛している君を俺のものにするのが目標だった。ごめんね。君を傷つけてしまった。離婚してくれて構わないよ》」 「《ごめんなさい、今は何も考えられないわ》」 「《信じてくれなくていいよ》」 普段明るいあなたが、目を潤ませてそんな嘘をつく? 私は混乱していた。 仕事が忙しい中、出産にも立ち会って、雅の誕生を喜んでくれて。 離れたくない。 でも叔母様も大切なの。 自分でも何が一番大切なのか分からない。 だから離婚はせず、雅と私の二人はスイスを拠点にし、雅彦とは年に数回だけ会っていた。 そして雅彦がスイスに来る予定だった1週間前、エリックのお母様が亡くなった。 『《ごめんソフィア、エリックのお母さまが亡くなった》』 「《そう…エリックのお母様が…》」 じゃあこないわ。 1週間後は私の誕生日だけど、あなたは復讐のために生きていた。 だからエリックを優先する。 私は復讐の道具でしかないもの。 『《viewingには参列したいから。だから予定を1日ずらしてスイスに向かうよ》』 「《え?》」 『《君の誕生日だろう?1日遅れてしまうけど》』 「《だってエリックは》」 『《エリックは同行しないよ。俺ひとりでスイスに行く。だから家族だけで楽しもう》』 絶対に、エリックを優先すると思った。 それがとても嬉しかった。 「《どうかしましたかソフィア様》」 「《テリー、ディナーの予約の日を1日ずらしてくれる?そしてその日は休暇を取りなさい。家族だけで楽しむ日にするわ》」 「《―…かしこまりました》」 雅彦に会える。 家族の時間を楽しんで、そしてどうしても伝えたいことがあった私の心は踊った。

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