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序章《エリックside》4
「《ソフィア様と結婚?》」
「《あぁ。子供が出来た》」
雅彦様は当て付けのようにソフィア様と結婚し、そして雅様が産まれた。
しかし復讐のための結婚だと知り激怒したソフィア様は、雅様を連れてスイスを拠点にし、世界中を転々としていた。
離婚はせず、たまに会う関係。
しかしソフィア様が激怒していたのは最初だけで、夫婦仲は良好だと思う。
雅様が産まれて4年が経った頃には、雅彦様の中で優先順位が変わっていた。
「《エリック…あの女への復讐は終わっていないけど少し中断しようかなと思う》」
「《そうですか》」
「《1人でいることに慣れていたのに、大切なものが増え過ぎてしまった。今は復讐よりもそれらを大事にしたい》」
「《いいと思いますよ。あなたは復讐のために生きるのではなく、もっと幸せを感じて過ごすべきです》」
その時の雅彦様の笑顔が優しくてとても綺麗だった。
あなたはこれから時間をかけて幸せになるべきだ。
―…そのはずだったのに
「《雅彦様…私もスイスに付いていきます》」
いつものようにソフィア様と雅様に会うためスイスに行くことになっていた1週間前、私の母親の容態が急変し亡くなった。
父を心配した雅彦様は、私に休暇をとれと命じる。
「《今は家族の傍にいてあげなさい。父上はとても悲しんでいるだろう?一人にさせないで。大丈夫、俺はすぐ戻るから。たまにはエリックなしで俺たち家族だけで過ごすのもいいしね》」
そこで思ってしまった。
私がお供をせずに、家族だけで楽しんで欲しいと。
無理やりでも着いていくべきだったのに。
「《申し訳ありません》」
「《ひとり旅も悪くない。じゃあ、行ってくるよ》」
「《お気をつけて》」
土葬前日のviewingに参列した雅彦様は、そう言ってスイスへと向かった。
それが雅彦様と話した最後の会話だった。
数日後、国際電話が入る。
「《エリック!雅彦様が撃たれた!》」
「《…!》」
撃たれた?
なぜ?
どこを?
容態は―…?
冷静さの試験で満点を獲得したことしかない私の脳が理解できずにいる。
「《無事、―…なのか!?》」
「《亡くなられた…。救急隊が到着したころにはもう…大動脈を撃たれて出血が酷かったそうだ》」
スイスのレストランでギャングに絡まれ撃たれそうになった幼い雅様を庇い、射殺されたのだと聞かされた。
あぁ、なんてことだ。
私が傍に居れば守れた可能性が高い。
死ぬべきは貴方ではなく、私だったのに。
貴方はまだ生きるべきだった。
こんな理不尽な死を遂げるような方ではない。
もっと貴方の笑顔が見たかった。
幸せな姿をもっと見たかった。
―…私が傍にいれば
「《雅彦様―…》」
このお方の亡骸を目の前に、泣いてはいけない。
流せる涙は全て流した。
今すぐにでも眠りから目が醒めそうな顔をしているのに。
あなたは、もう―…
「《一生貴方にお仕えすると誓ったのに…》」
大切なあなたを守れなかった。
雅彦様、私はあなたの執事失格です―…
「《エリック・ブラウン》」
「《はい、ソフィア様》」
雅彦様の死後、ソフィア様が契約書を1枚私の目の前に差し出した。
あぁ、懐かしいあの方のサインだ。
その契約書に目を通す。
「《今日から貴方は雅の執事よ。最低でも雅が18になり学校を卒業するまでは世話をし、守り抜きなさい》」
「《かしこまりました》」
それからすぐのこと、私は4歳の雅の専属の執事となった。
必ず守ってみせる。
貴方が守り、遺した、大切な雅様を。
「《エリック・ブラウンです。雅様のお世話をさせていただきます》」
「《よろしく、エリック。綺麗なブロンドの髪だね》」
「《…ありがとうございます雅様》」
―…何があっても、必ず。
【to be continued】
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