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囚愛《テリーside》1
エリック・ブラウンは優秀だった。
7歳から執事学校に入学し、成績は常に主席で、合格率3%の最終試験を1発で合格し、平均卒業年齢20歳の執事学校を異例の15歳で卒業。
更に15歳で執事学校の講師の資格と、薬学師の資格を在学中に取得したのは、この100年の歴史でエリックのみだった。
優秀が故に、ジェフ・フレーデル様に認められて16歳から三科雅彦の専属の執事となる。
俺は執事学校を卒業後、講師として執事学校に勤めていた。
その4年後、ソフィア・グランドール様が三科雅彦と結婚し妊娠したと知ったジェフ様の正妻である叔母 様が激怒。
当時のソフィア様の執事はクビになり、変わりに俺がソフィア様の執事として任命された。
そこで俺は、ソフィア様が三科雅彦と結婚をしたことを知る。
俺はずっと欧州の妖精と呼ばれ人気モデルのソフィア様のファンだった。
だから嬉しい反面、他の男のものになってしまって悔しくもあった。
「《テリー、雅彦はね、私を愛していないの》」
結婚をしても、ソフィア様と雅彦様が一緒に暮らすことは無かった。
「《私は復讐のための道具なの》」
いつも笑いながら、時折悲しい表情をして。
「《愛していらっしゃいますよ》」
「《愛していないわ》」
なぜ俺がそんなことを言わないといけないのか。
とっとと別れてしまえ。
そしてソフィア様を俺のものにしたい。
執事としてあるまじき思考が生まれてしまう。
「《よくやった、ソフィア。元気な男の子だ》」
そして雅様が誕生した。
忙しいスケジュールの中、スイスまで飛んできて出産に立ち会うなんて。
本当にソフィア様を愛していないのか?
こんな表情で喜んでいる男が?
「《テリー、連絡ありがとう。身重のソフィアを守ってくれて感謝しているよ》」
「《いいえ》」
雅彦様を見つめるソフィア様の目は、この男を愛している目だ。
それにこの男も、ソフィア様を大切に想っているだろう。
ああもう、いっそいなくなってしまえばいいのに―…
「《テリー、パパはダンスが上手なんだね》」
「《そうですね。百合亜様…雅様のおばあさまが踊り子でしたからね》」
「《カッコいい》」
雅彦様は10月になると1ヶ月スイスで共に過ごすのが恒例となった。
それ以外の季節は会いに来ても食事を取って帰るだけ。
それでも雅様が雅彦様に懐いているのは、毎日のように雅彦様の動画を見ているから。
モデル業だけでなく、人気ミュージシャンのMVに出ていたり、たまにダンスを踊ったり。
動画サイトにUPされているものや、テレビに出ているものを見ている。
男の俺からしてみても三科雅彦という人間はカッコいい。
「《エリックのお母様が?》」
雅彦様がスイスに来る1週間前に、ソフィア様に国際電話が入った。
「《そう……え?でもエリックは…?》」
電話を切ったソフィア様からエリックの母親が亡くなったと聞かされた。
雅彦様は土葬前日に行われるviewingに参列し、1日ずらしてスイスに来るそうだ。
「《テリー、ディナーの予約の日を1日ずらしてくれる?そしてその日は休暇を取りなさい。家族だけで楽しむ日にするわ》」
「《―…かしこまりました》」
家族だけで過ごしたいから、と言われた。
そしてスイスに来た2日後、三科雅彦はレストランで雅様を庇ってギャングに射殺されたのだ。
「《ソフィア様!雅様!》」
「《テリー…》」
一報を聞いて病院に着いた時、ソフィア様は雅様を抱き締めながら震えていて、雅様は放心状態だった。
「《血が…たくさん出て、止まらなくて…》」
救急隊が駆けつけた時にはもう息を引き取っていたそうだ。
こんな形でいなくなるなんて。
それからソフィア様はモデル業を引退し、パパラッチから逃れるために数ヵ国短期滞在して4人で日本へ移住することになった。
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