33 / 82

囚愛Ⅱ《雅side》7

「今回は俺の負けだなぁ」 地球の滅亡に勝てなかった俺は、腕枕をしている手でエリックの短くなったブロンドの髪を撫でながら幸せを感じた。 エリックの誕生日なのに、俺がこんなに幸せでいいのだろうかと思うぐらい幸せだ。 「雅様」 「ん?」 顔を見上げ俺を見つめてエリックが話し始めた。 「実は明日から2週間、ドイツ校のリモートの会議が増えることになりました」 「時間は?」 「こちらの時間で0時~深夜2時です」 エリックはこの季節になると、執事学校の生徒のランクを決め翌年の編成をどうするのか会議をする。 「執事学校も卒業認定とかクラス選定の時期なんだね」 「ええ。ですから卒業式が終わるまではセックスを禁止にしたいのです」 ドイツとの時差は8時間。 あちらの時間にエリックが合わせるのでこの時期は2週間ほど忙しくなる。 「確かに深夜2時から抱くのは次の日が大変だしね」 「申し訳ございません」 「大丈夫だよ。頑張ってね」 「ありがとうございます」 まぁ俺が学校卒業して、エリックにプロポーズして、エリックが俺の奥さんになったらいつでも抱けるしね。 春からは楽しい新婚生活スタート。 卒業式が待ち遠しい。 ―3月10日― 「雅様、ご卒業おめでとうございます」 朝、学校へ行くために玄関で靴を履いていると、エリックに呼び止められプレゼントを渡された。 「卒業祝いです」 「学校から帰ってきてからでもいいのに」 「…早くお渡ししたかったので」 「ありがとう。開けてもいい?」 エリックが頷いたのを確認して、中身を開けるとグレージュのスプリングコートが入っていた。 「素敵なコートだ…今日着てく」 そう言って俺はすでに着用していたコートを脱いでエリックに渡し、プレゼントされたコートを着た。 「お似合いです」 「ありがとう」 「雅様、そろそろ行きましょう」 「ああ。ごめんねテリー」 今日エリックはL.A.校のリモート会議が朝早くからあって送迎ができないと言っていた。 「エリック、帰ってきたら高級ディナーを食べよう」 「―…楽しみにしています。いってらっしゃいませ」 「いってきます」 笑顔で見送るエリックに背を向けて、卒業式へと向かった。 卒業式は正午に終わり、クラスの皆と記念撮影したりプレゼント交換をしたりした。 クラスの皆は夜に集まって卒業パーティーをするらしい。 でも俺は、エリックとディナーを食べてプロポーズをするから断っていた。 「雅、結婚式呼んでね!」 「もちろんー!盛大にやるよー!」 テリーが迎えに来たのを確認して、急いで車に乗り込んだ。 あぁ早く帰ってエリックを抱きしめたい。 20分ほど車を走らせ自宅に着くと、俺は車を降りてエリックの部屋へと向かった。 エリックはオンライン授業17時からだったはず。 部屋にいるかな? さぁ、待ちに待った卒業式の日。 待ちに待ったプロポーズ。 エリック、今日君は俺のものになる。 テリーに手配してもらっている高級ディナーを堪能してから、夜景の見えるホテルでプロポーズする。 その前に、まずは君を抱きしめてキスをさせて。 「エリック!ただいま!」 エリックの部屋を開けると、そこにエリックはいなかった。 「え…?」 それどころか、エリックの部屋はまるで誰もいなかったかのように物がなく綺麗になっていた。 いつもエリックがオンライン授業で使っていたテーブルの上にメッセージカードが置かれていることに気付き、それを手に取る。 【卒業おめでとうございます。今までお世話になりました。どうかお元気で。さようなら。 Eric】 「は?…なんだよ…これ…嘘だろ?」 俺が今までエリックにあげた枯れてしまった白い薔薇11本を添えて―… …冗談だよね?  しばらくしたら戻ってきて、嘘だったって言うよね? ねぇエリック、 早くプロポーズをさせて。 君を俺だけのものにさせて。 抱きしめさせて。 キスをさせて。 愛してると言わせて。 早く、帰ってきて―… そう思って翌日になっても、エリックは帰ってこなかった。 あと1日経てば帰ってくる。 もう1日経てば…と信じて。 そう思って1ヶ月が過ぎ、 それから 暖かい季節になって 桜が咲いても 暑い季節になって 太陽の日差しで溶けそうになっても 肌寒い季節になって 紅葉が綺麗になっても 凍りつくような季節になって 恋人達が街を行き交っても またスプリングコートを着る季節になって 暖かくなっても無理して着続けて 着用する度にエリックを思い出して そんな四季を繰り返して 卒業式から3年が過ぎても エリックが俺の前に現れることは1度もなかった。 【to be continued】

ともだちにシェアしよう!