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囚愛Ⅱ《エリックside》2

帰宅をし、自分の部屋のデスクに座り、先ほどあったことを整理した。 私は竜に嫉妬していた。 雅様の想い人が私で良かったと感じてしまった。 雅様を親心としてではなく、一人の男性として好きだと気付いてしまった。 ―…そんな感情、絶対に持ってはいけないのに     雅様が私を愛しているなら尚更。 「ソフィア様。私の執事契約は雅様が18になり高校を卒業するまででしたよね?」 テリーが席を外している間、一人でいるソフィア様に話しかけた。 「ええ」 雅彦様は生前、万が一自分が亡くなった時のために契約書を用意していた。 自分が死んだら執事契約を雅様の高校卒業まで延長するというような内容だ。 私はそれにサインしていた。 「雅様が卒業をしたら契約終了し、私は日本から離れます」 「え?」 「L.A.校の講師として働こうかと思います。あちらも人員不足のようなので」 もしこの気持ちが薄れるようなことがあれば、契約の延長をしよう。 「…まだあと8ヶ月あるわ。よく考えて、2ヶ月後に気持ちの再確認をさせて。雅はあなたを必要としているから」 「はい」 雅様を心から愛しているこの感情が薄まれば。 逆に深まるようなことが、あればその時は迷わず―… ―9月 文化祭当日― 「エリックー!母さん、テリーも!みんな来てくれてありがとう」 3人で雅様のダンスを見るために文化祭へ来た。 髪の毛をセットして、衣装を着て、久しぶりに見る雅様に心がざわつく。 「あと30分でJEESのライブとダンスだから」 「楽しみにしているわ」 「テリー、母さんがナンパされないように守ってね」 「もちろんです」 そう言って雅様は本番に備えるためその場を離れた。 用意された関係者席に座り、ライブを待った。 「いやー、若い子いっぱい」 「お前はすぐに手を出しそうだなテリー。私は生徒をテリーから守らないと」 「うるさいなぁエリック。あ、始まるぞ」 場内が暗くなり、JEESのライブが始まった。 幼い頃からずっと見てきた雅様のダンス。 今は一段と輝いて見える。 それと同時に、やはり私なんかではなく、年の近い人を好きになって幸せになって欲しいと思った。 「エリック、俺たちは先に帰るから」 「ああ」 ライブが終わり、テリーとソフィア様は帰宅した。 私はこの後、雅様の打ち上げが終わるまではフリータイム。 その間に、この気持ちを落ち着かせたいと思い何も考えず校内を歩いていた。 「エリック?」 聞き覚えのある声に呼ばれ、振り返るとヒカリがいた。 「どうした…そんな…《泣きそうな顔して》」 気を遣ったのか、周りの生徒にバレないように途中から英語で会話をしてくれた。 「《泣いてなどいませんよ。喉が渇いて飲み物を探していました》」 「《じゃあ一緒に行こう》」 そう言って生徒の出し物へと私を案内してくれた。 危なかった。 あのまま一人でいたら、色んな感情が溢れて泣いてしまっていたかもしれない。 「おー、お前ら。サボらずやってんだな」 「哀沢先生ー!あー!誰その金髪の美人さんは?雅鷹先生に言いつけるよー?」 「めんどくせぇから止めろ。エリック、何飲む?」 「―…冷たいコーラを」 「コーラ2つ」 そして休憩スペースに座り、ヒカリとの雑談を楽しんだ。 ヒカリに出会ったのは彼がまだ10歳の頃。 雅彦様の屋敷の隣が、ヒカリの祖父で雅彦様の担当医の家だった。 たまにアメリカに来るヒカリにスケジュールを合わせ、遊ぶのを楽しみにしていた雅彦様を思い出す。 「《ヒカリは…マサタカと付き合って長いのですか?》」 ヒカリはこの学園の英語教師である山田雅鷹という青年と、学生時代から付き合っていると雅様が言っていたのを思い出した。 「《もうすぐ10年かな》」 「《なぜマサタカを好きだと気付いたのですか?》」 「《俺は…ずっと三科雅彦が好きだったから。あいつが死んでから誰も好きにならないって決めたんだけど》」 やはりヒカリは雅彦様を好きだったのか。 雅彦様からしたら、ヒカリは弟のような子供のような存在だったと思う。 でもヒカリの目線は雅彦様の心の奥深くを欲しがっているのを感じていた。 「《だから山田のことも好きになる予定はなかった。告白も断った。それなのにずっと俺を想っててくれて、気付いたらあいつがいないと寂しいなと思うようになったんだ》」 雅彦様が死んでいなければ、私が守れていれば、別の未来があったかもしれない。 きっとヒカリに恋人が出来たことを祝福したいから、パーティーを開こうと仰るはずだ。 そんな未来を創れなかった、私の責任―… 「《山田からの好きって言葉が、俺の精神安定剤だから》」 「《愛しているのですね、マサタカを》」 「《あぁ。誰よりも愛してるよ。俺はこれが最後の恋だから》」 「《もしマサタカが何も言わずヒカリの元を去ったらどうしますか?》」 自分がしようとしていることを、マサタカに置き換えて質問するなどなんて最低なのだろうか。 これ以上ないくらい恋人を愛しているヒカリを、雅様だと置き換えて。 「《誰かを好きになって幸せなら追わないけど…俺を好きなのに離れたのなら、見つけ出して、離れようと思えないぐらいに愛すよ》」 私は幸せにはなれない。 なってはいけない。 「《幸せですね、マサタカは》」 ふと笑うヒカリが可愛かった。 「《ヒカリ、どうかマサタカと幸せに》」 「《もちろん》」 雅彦様の死を乗り越えたあなたが、マサタカといつまでも幸せでいられますように。 そう願いながら、生徒に呼ばれたヒカリと別れ、ライブが終わった雅様の元へと向かった。

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