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囚愛Ⅱ《エリックside》3
雅様は私の元へ駆け寄り、手を掴んでどこかへと歩き出した。
「帰ろうエリック」
「打ち上げはよろしいのですか雅様?」
無視。
何か怒っていらっしゃるのか…?
手を引く力が強い。
「雅様?」
向かっている先は寮だった。
打ち上げはしないで本当に帰るつもりなのだろうか。
寮の部屋の鍵を開けて、半ば強引に私を中へ連れ込んだ。
「私ならどこかで時間を潰して待って―…ん」
そして私が話し終わる前に、ドアに押し付けてキスをする。
いつもとは違う、雅様らしくない強引で優しくないキス。
一体どうしたのだろうか。
「《暇潰しって…哀沢先生と?》」
両手で私の頬を押さえ、私を見つめて無表情で英語で問いかける雅様。
「んっ…は…ーっ…ん…n」
NOと答えたいのに、再び唇が重なり、舌を遊ばれる。
「Say something 」
何か気に触ることをしてしまったのか?
本気で怒っている時、雅様は日本語を使わない。
「―…んっ―…は、…あ、…ん」
「Did you hear what i said ? 」
考える時間も、答える時間も、キスによって封じられてしまう。
「んっ…みや―…ふぁ…んん」
「C'mon 」
私のサングラスが床に落ちても雅様はキスを続ける。
「《俺とセックスするときみたいに髪の毛おろして、哀沢先生とどこか行ったって言われたら嫉妬するに決まってる》」
「《ん―…ヒカリは、別に…んっ…は…ん…》」
「《他の男の名前呼ばないで》」
嫉妬…?
こんなにも感情的になるほど私がヒカリと一緒に居たことに苛立っているのか。
「《エリックに逢いたくて逢いたくてたまらなかった。打ち上げなんてどうでもいい》」
その嫉妬が嬉しいと感じてしまった。
愛されていると実感してしまう。
「キスだけでこんなに硬くして…ヤらしい」
いつものように俺のキスだけで硬くなっている私の股間をさする。
そしてキスをしながら私のズボンの中に手を入れて、硬くなっているモノを掴んでゆっくりと上下に動かした。
「嫌…です!こんな…場所、でっ!アッ、―…あっ、あっ」
こんな、学校で。
文化祭で人が多い時に。
竜が帰ってきてしまうかもしれない部屋で。
廊下に誰かいるのかもしれないのに。
「これ鎮めないと帰れないでしょ」
「はっ、あっ、ん…手、―…止めっ、あっ…」
「嫌だって言いながらこんなにヌルヌルさせてさ…ここどこだか分かってる?」
そして手を離し、屈んで私のズボンを下げて硬くなったモノを露にさせて口に含んだ。
「雅様っ…!!」
「誰が来るか分からないから早く出しちゃおっか。声出さないようにねエリック」
そう言って再びフェラチオを続ける。
2ヶ月ぶりに感じる下半身の快感に私は立っていられず、ドアに背中をつけたまま座り込んだ。
「あっ…アッ…んん―…み、や…」
嫌がって雅様の頭を掴み離そうとするものの、私の腕の力よりも雅様の首の力が強く、離せない。
亀頭だけを口に含んで舌を動かされたり、裏筋に舌を這わせて吸い上げたりを繰り返されると、嫌なのに声が制御できずにされるがまま。
「はっ―…あっ…ンンッ」
「人が来たらまずいから、声出さないように指咥えてて」
「ふぁ…んっ…は―…」
雅様は舌の裏側で性器を刺激しながら右手の中指と人差し指で私の舌を弄る。
唾液を吸う暇なんて与えてもらえない。
左手で私のモノを上下させながら口で含む動作を繰り返すと、自分でも呼吸が荒いのが分かった。
「雅、様…放し、て…もうっ」
行き場を無くした唾液を口から垂らし、力なんて入らないのに再び雅様の頭を掴んで放そうとする。
しかし止まらない。
無力にも、唾液が雅様の指をつたって床に垂れる。
やばい。
もう、そろそろ―…
「いいよ。イッて」
「―…ッ!」
そして2ヶ月ぶりに快感と同時に主様の口内に精液を出した。
雅様はそれを全て飲み込み、舌で自分の唇を1周させたあと放心状態の私を見つめて言う。
「続きは帰ってからね」
お互い普段と変わらぬ様子で帰宅し、いつものように皆で夕食をとり、23時に部屋をノックする音が聞こえた。
ああ、本当に雅様が帰ってきたのだと実感した。
ベッドの上で本を読んでいる私に近づき、キスをする。
「あぁ2ヶ月長かった。愛してるよエリック」
2ヶ月ぶりに雅様に抱かれ、自分の気持ちを再確認した。
初めて雅様を愛していると自分自身で認識してからのセックス。
心も体も満たされる。
こんな感情知らなかった。
この感情が一時的なものであって欲しいのに、日に日に雅様への気持ちが深くなってしまう。
―…あぁ、ならば尚更離れなくては
―10月某日―
庭のテーブルでティータイムを楽しんでいるソフィア様とテリーの元へ向かった。
「ソフィア様…やはり春になったら日本を離れます」
その発言に、テリーは驚いていた。
ソフィア様はゆっくりと紅茶を飲み、そして私を見上げて言った。
「…雅を愛しているから?」
なぜ分かってしまったのかと一瞬驚いたが、長年お世話になった方に嘘はつけなかった。
「はい」
「私はエリックと雅が一緒になって欲しいと思っているわ。私が許可しても離れたい?」
これ以上ない程、光栄なことなのに。
それでも私は―…
「私は雅彦様を守れなかった。本来死ぬべきは私でした。だから幸せになる権利など無いのです」
「あれはあなたのせいじゃないわ。あの日が私の誕生日でなければ…」
「違いますよソフィア様。あの日、私は雅彦様に付いていくべきだったのです。職務放棄も同然…執事失格です」
ずっと心の奥底で眠っていた感情。
何年経っても、誰に何を言われても、自分が自分を許すことができない。
自分のせいだと思わないと、あの方の死を受け入れることが出来ない。
雅彦様を守れなかったのに、
本来死ぬべきは私だったのに、
幸せになどなれない。
「雅様を愛して、愛されて、満たされて、幸せを感じる度に自分が憎くて仕方ないのです。雅彦様が死ななければ今は無い。今を喜んではいけないのに…」
満たされる度に苦しくて、
愛される度に嬉しくて、
愛する度に消えたくて、
だから、離れなくては―…
「エリック…」
気付けば私の目から涙が溢れていた。
ソフィア様もテリーも困っているのに、涙が止まってくれない。
「分かったわエリック。でも条件があるの。それを呑んでくれたら契約を終了するわ」
「条件…?」
「L.A.校は、あなたの実家からも近いのよね?つまり雅彦が幼少期に住んでいたアメリカの屋敷も近い。だから、そこに住んで欲しい。条件はそれだけ」
私が最期まで雅彦様と共に過ごしたあのアメリカの豪邸。
たくさんの想い出が詰まったあの場所。
「もちろん雅にあなたの居場所を伝えないし、こちらからも必要最低限な連絡はしない。雅彦のこと思い出して辛いかもしれないけれど…どうかしら?」
またあの場所に帰れるのか。
とても光栄なことだ。
「いいえ。ありがとうございますソフィア様。契約終了まで宜しくお願いします」
そして後日、
【雅様との執事契約を高校卒業する前日で終了する】という契約書にサインをした。
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