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囚愛Ⅱ《エリックside》4
執事学校の講師になりたいことを父に伝えるととても喜んでいた。
あれから数ヶ月、着実に向こうで暮らす準備が進んでいく。
「買い物ですか?」
「うん、大学生になるから色々欲しくて。付き合ってよ」
2月下旬、雅様に買い物に付き合って欲しいと言われ行きつけのセレクトショップへと向かった。
雅様とこうして買い物に行けるのもあと何回なのだろうかと思いながら隣を歩いた。
店に入るなり店員と話し、しばらくしてスタッフ数名がこちらへ来て私へと視線を向ける。
「エリック様、こちらへどうぞ」
「―…私ですか?」
「そうだよ、誕生日おめでとうエリック」
数名の店員が私を衣装室へと連れていこうとする。
その状況に戸惑った。
「今日は執事としてじゃなくて、エリック・ブラウンとデートするんだ」
「しかし…」
そうか、忘れていたが今日は私の誕生日。
「いーから!今日は俺がエスコートするの。おしゃれな髪型にしてね。あと、用意していた服を」
「お任せください」
雅様に肩を押されながらヘアメイク専用の場所へ移動し、イスに座らされる。
そして雅様はその場を離れた。
「素敵な髪ですねエリック様。どんなヘアセットにしますか?編み込みをいれても素敵ですし…」
「―……切ってください」
「どれくらい切りますか?」
「そうですね…このような髪型に」
鏡を目の前にして自分の長髪を見て、この長いブロンドを切ってしまおうと思った。
雅様が綺麗で好きだと言ってくださったこの髪を。
ヘアカタログを開き、見本を指差す。
店員は本当にいいのかと何度も問うが、私の決意は揺るがなかった。
「エリック様、とてもお似合いです」
髪の毛をショートにし、雅様が用意してくださった洋服に着替えて待機している雅様の元へ向かった。
「お待たせ致しました」
「エリック…?」
「髪型…変、ですか?」
「ううん。とても素敵だよ」
雅様はそう言うと、私の首に手を回しネックレスを装着してくれた。
雅様の首元を見ると、私に装着したネックレスと同じものが身に付けられていた。
ペアネックレスだなんてまるで恋人同士のようだなと思った。
そして手を繋いで街中へと繰り出す。
軽くランチを済ませ、タクシーで向かった先はフラワーパークだった。
母が昔から花が好きで、私は執事学校に入るまでたくさんの花に囲まれて育ってきた。
真面目な父も、明るい母の影響で日々の感謝を花で伝えたり、特別な日にはお互いに大量の花束を贈り合う。
私はそんな二人を見ているのがとても好きだった。
「この花の花言葉は?」
「フリージアですか。親愛。友情。卒業のシーズンにはぴったりのお花ですよ」
「へぇ」
1日では周りきれないほどの大きな施設で、時間を忘れて花の観賞を楽しんだ。
夕方になり、ホテルを予約しているというのでチェックインをし荷物を置いた。
そして屋上にあるルーフトップレストランで夜景を見ながらディナーを堪能する。
「こんなに豪華な食事とホテル…金額もお安くなかったでしょう?」
「これはね、俺が今まで貯めてたお金だから。この日のために。でもプロポーズはもっと凄いところでさせてね」
まだアルコールも飲めない20も年下の主に、ここまで愛されて。
今でさえ幸せなのに、プロポーズはどんなに幸せな日になるのだろうか。
そんな日はやって来ないのに―…
「それは…きちんとお礼をお返ししないといけませんね」
「愛で返してくれればいいよ。これ以上ないぐらいの愛でね」
何も返せないのに。
あなたに何も言わずあなたの元を離れてしまう最低な私を、人生の中の小さな1つの思い出として。
そして、いつかその思い出さえも忘れて幸せになって欲しい。
あなたの笑顔をずっと見ていられたらいいのに。
そんなことは無理だと脳が理解し、ワインを飲みながら夜景を見た。
食事を終え、落ち着いてから部屋に戻る。
「一緒にバスルームに行かない?」
私の返事を聞かずに、コートを脱ぎ、手を引いてバスルームのドアを開けた。
ライトアップされた広いジャグジーに浮かぶ無数の白い薔薇がとても綺麗で驚いた。
「誕生日おめでとうエリック。今年は3本の白薔薇を君に」
そう言っていつものように私の誕生日にプレゼントしている包装された白い薔薇をプレゼントしてくれた。
「今年で11本目。3本と11本の白薔薇の花言葉…エリックなら分かるよね?」
白薔薇の花言葉
3本は『愛している』
11本は『最愛』
また私の心の奥底が熱くなる。
もっとあなたと一緒にいたいと思ってしまう。
「…いつもありがとうございます」
そう言って深いキスをし、服を脱いでから共にジャグジーへ入った。
バスルーム内の暗さに比例して、ジャグジー内のライトとその光が白薔薇に照らされて白ではなく様々な色に変化していた。
「このお湯…少しとろみがありますか?」
「ホテルにお願いして、少しだけローションを混ぜてもらった。エリックと入浴なんて初めてだからさ、ちょっと楽しみたくて」
色々考えてくださったことが嬉しくて、無意識に微笑んでいる自分がいた。
私は、とろみのある湯船に浮いている無数の白薔薇を手に掬って問いかけた。
「この白薔薇はいくつ用意したのですか?」
「101個」
101本の薔薇の花言葉は
『これ以上ないほど愛している』
あぁ、もうこの愛を素直に受け入れられたらどんなに幸せだろうか。
あなたから離れようとしているのに、心が離れようとしてくれない。
未だに私の決意に心が追い付かない。
追い付くことは無いのに。
だから―…
「…ありがとうございます。素敵な誕生日になりました」
「来年は俺の奥さんとしての初めての誕生日になるから、今日よりも素敵にするよ」
だからこれ以上もう私を愛さないで。
私の心を満たさないで。
あなたの愛がとても嬉しくて。
嬉しくて、嬉しくて、今の現状を全て忘れてどうにかなってしまいそうだから。
だからもうこれ以上は―…
気付くと私は雅様に腕を回してキスをしていた。
「エリック、愛し…」
これ以上あなたの口から私を愛してると言わせないように情熱的なキスを。
時間を忘れて、白薔薇に囲まれている愛しい人とのキスを堪能した。
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