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囚愛Ⅲ《エリックside》2

アメリカに来てもうすぐ3年が経とうとしていた秋頃、私のPCに見慣れないアドレスからメールが来ていた。 それはドイツ語で“お元気ですか、白薔薇姫?”という件名で書かれていた。 この挨拶…テリー以外考えられない。 日本にいた時から、私のことをよく白薔薇姫と呼んでからかっていたからだ。 日本から離れる時、テリーには新しいアドレスを教えていた。 しかし連絡がくることは無かった為、私もすっかり忘れていた。 “お元気ですか、白薔薇姫? なんてな。アメリカには慣れたか? 雅様にバレないようにドイツ語でメールを送るが、ドイツ語なんて話す機会がなくて文法がおかしかったらすまない。 3月にソフィア様が雅彦様の屋敷を訪問したいと言っていた。 久し振りに雅彦様の遺品等を拝見したいそうだ。 滞在期間は1ヶ月ほどを予定している。 返事を待ってる。 親愛なる同僚  黒薔薇のテリーより” 最後のふざけた文面はテリーそのもので、彼と離れて何年も経つのに脳内にあの声が再生された。 私はテリーに返事を送り、3月下旬頃にテリーとソフィア様がアメリカに来ることになった。 ―3月下旬― テリーとソフィア様がアメリカに来る前日の夜、執事学校を異動する講師の送別会が開かれ、アルベルトと共に参加をした。 「“エリック”」 大勢がざわつき盛り上がっている中、しばらくしてアルがグラスを持って私の隣に座り見つめて言う。 「“―…エリック…僕じゃダメかな?”」 「?」  「”君ともっと一緒にいたい。初めて会ったときからずっと好きだった…結婚して欲しい”」 何を言い出すのかと思えば、交際もしていないのにプロポーズ? アルが私に恋愛感情を抱いていることに驚いた。 「“冗談だろう?…お前のことは友人であり同僚としか思っていない”」 そうだ。 執事学校のときだってそんなこと言わなかったじゃないか。 「“君が振り向いてくれるまでずっと待ってる。執事学校のときから何年も君を忘れられずにいた。もし奇跡が起きて再会出来た時はプロポーズしようと決めていたんだ”」 「“アル…”」 酒のせいなのか? 冗談か? そう思ってアルの表情、雰囲気を再度確認するがその気持ちが本気だと徐々に伝わってきた。 「“だから諦めろだなんて言わないで…返事は急いでいないから。さぁ今日は飲もう。飲み比べだエリック”」 そう言うとアルは空になっているグラスに酒を注ぎ始めた。 アルは昔から酒が弱かったが、遊び人であるアラブの主に鍛えられたと言っていたな。 しかし私も酒豪である雅彦様に付き合わされて飲まされ、徐々に酒が強くなっていた。 「“雅彦様に鍛えられた私に勝負を挑むとは―…後悔するなよアル?”」 「“そっちこそ”」 プロポーズされたことも、送別会だということも忘れ、二人で飲み続けた。 結果―… 「“アル、お前酒弱いんだな”」 アルの惨敗だった。 ここまで酔わせた罰として、アルを自宅まで送るように上司に指示をされ、酒臭いアルの部屋へと向かった。 「“いやエリック…アルコール度数25%の赤ワインを1人で2本飲んでも余裕って君が凄すぎ…ごめん…水もってきて”」 雅彦様はそれ以上に飲んでいたし、翌日の仕事にも支障はなかったぞ?と思いながら水を用意する。 「“アル、水……―っ!”」 ベッドに倒れ込んでいるアルにミネラルウォーターを届けた瞬間、気が付くと天井とアルベルトが見えた。 「“何のつもりだ、アル?”」 「“エリックが寂しそうだから抱こうかなと思って”」 私の両手を押さえつけ、笑顔で馬鹿げたことを言う同僚に腹が立った。 「“やめろ”」 アルを睨み付け、そう言うと彼は怯まずにキスをしようとしてきた。 私は全力で拒否をし、顔を反らした。 アルはそのまま私の耳に顔を近付け、耳元で囁いた。 「“ねぇ…このネックレス、誰から貰ったの?”」 ネックレスを引っ張りながら、首筋にキスマークをつけようとしている。 その場所は―… 雅様がキスマークをつけた場所。 いやだ、上書きされたくない。 「“や、めろっ!!”」 酔いつぶれていることなど関係無しに、腹を蹴りあげ、ベッドの外に投げ飛ばした。 「“痛―…相変わらず凄い力だねエリック。ははは…最…高…”」 「“帰る!軽蔑した!もう私に二度と話しかけるな”」 アルはそのまま床で眠ってしまったが、私は介護もせず帰宅した。 明日は執事学校も休みだ。 1日あれば二日酔いも治るだろう。 それに明日は日本からソフィア様とテリーが来る日なんだ。 アルになんか構っていられない。 私は怒りを落ち着かせながら帰宅した。

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