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囚愛Ⅲ《アルベルトside》2

エリックに許してもらえて、いつも通りの日常にテリーと雅がいることが当たり前になっていた。 「“エリック、最近ネックレス着けてないんだね”」 「“―…あぁ。1ヶ月間は冬眠したいと言ってて、外している”」 「“ははっ。君のネックレスは熊か何かなのかな?”」 あとあと考えたら、1ヶ月というのは雅が帰国するまでの間だったんだろう。 この時の僕は気付かなかった。 だってまさか…20も年の離れた、執事と主が恋愛関係にあるなんて誰が思う? 「《雅は、恋人いるの?》」 左手の薬指の指輪をアピールして笑って見せる雅。 「《いいなぁ。羨ましい》」 その指輪にエリックの名前が刻印してあるなんて誰が思う? 「《アル!俺のバッグの内側に財布入ってるから取って支払って。両手塞がっててさ》」 「《了解》」 買い物カゴも持たずに大量に品物を持った雅のボディバッグの中から財布を取ろうとしたとき、内側ポケットに入っているネックレスが落ちそうになってしまった。 このネックレス… エリックが毎日身に付けていたネックレスと同じ? いや、まさか。 だってあり得ないよ。 あり得ないことを僕は今からテリーに聞く。 「“テリー、雅はエリックを好きなの?でも彼は左手の薬指に指輪をしているよね?”」 「“あれは…エリックの名前が刻まれている指輪だ。プロポーズしようとしていたけど、エリックが姿を消したんだ”」 テリーが軽く教えてくれた。 雅はずっとエリックを好きで、エリックも雅を愛してしまったから離れたって。 なにその純愛。 エリックは渡さないよ。 「《そうだエリック、言い忘れてたことがあった》」 「《なんだ?》」 「《プロポーズの返事、楽しみにしているよ》」 僕は渡さない。 こんな20も下の坊やなんかに。 でも、日に日に分かっていく。 エリックが雅を見つめる目は、今まで僕が見たことのない目だった。 愛しくて、嬉しくて、優しい目。 知らないでしょエリック。 君は無意識にずっと雅のことを見てる。 僕は敵わないかもしれない。 諦めるしかないかもしれない。 そのぐらい二人が惹かれ合っているのが分かった。 ダンス大会の翌日、急にテリーに呼び出されてレストランへ向かった。 「《二人とも、どうしたの急に?》」 「《あぁごめんね急に呼び出して。帰国日をずらそうと思って。明日の深夜の便で日本に帰る》」 「《へぇ。それじゃあ僕は予定より早くエリックを一人占めできるね》」 冗談のつもりで雅を煽ったのに、その挑発を無視して雅が言う。 「《その時間…エリックを連れ出してくれないかな。夜遅くまでやってる場所に》」 「《は?見送りは?…まさかエリックに言わないで帰国するつもり?》」 彼は何も言わずに頷いた。 「《俺はもうエリックに二度と会わないから…だからアルベルトにエリックを頼みたい》」 「《なんの冗談?》」 冗談でしかない。 理解が出来ない。 困惑している僕に、雅が話し始めた。 三科雅彦の死、それによって生まれた過去のトラウマ、エリックとのこと、雅の気持ちを全て。 「《アルベルトならエリックを必ず幸せにしてくれると思ってるから。俺を忘れて幸せになって欲しい。ただそれだけ》」 彼は彼で苦しんでいる。 いつもの明るい雅じゃない。 ああ、これは嘘じゃないんだ。 「《いいの?僕は本気でエリックを僕のものにするよ?》」 「《アルになら安心して任せられるから。明日の夜、必ずエリックを連れ出してね。さぁ、食べよう!テーブルに料理が乗り切らないよ》」  いいじゃないか。 このまま雅を忘れるまで僕がずっとエリックを愛すれば。 エリックを僕のものに出来るじゃないか。 それでいいはずなのに―… 「《エリックはこの3年間毎日君と同じネックレスを身につけていたよ。君をずっと想っていた。それでもいいの?本当に?》」 ―…僕はなぜこの二人をくっつけようとしてるんだよ 「《エリックは酷く傷つくよ…?》」 「《そこまでしないと俺のこと忘れられないでしょ。アルが傍で癒してあげて。でもお願いが1つある。君たちの結婚式には俺を呼ばないで》」 エリックを誰にも渡したくないはずなのに、それでも自分の気持ちを押し殺して離れようとしている雅を見て、僕は居たたまれなくなった。 「《雅…》」 「《よろしくね、アルベルト。君に出会えてよかった」 ランチを済ませ、二人と別れて家に戻ってから考えた。 エリックに真実を伝えるべきか。 それとも雅に協力するべきか。 ずっと考えた。 「“エリックおはよう。今日の夜、食事に付き合って欲しいんだけど”」 「“二人きりで?”」 「“そう。新しくオープンした素敵な地中海料理店なんだ。奢るからさ。もちろんもう君に迫ったりしないからさ”」 僕は決めた。雅に遠慮はしない。 遠慮なくエリックを僕のものにする。

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