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囚愛Ⅳ《エリックside》1

雅様はもう戻ってこないのだ。 二度と会うことはできない。 そう思ってどれくらい泣き続けているだろうか。 そんな私の背中に体重がのし掛かる。 「やっぱり忘れ物を取りに来た」 耳元で囁かれた声を即座に愛しい人の声だと脳が理解した瞬間、私は持っていた指輪とネックレスを床に落とした。 そして私を抱きしめている腕を両手で強く握りしめて応えた。 「あなたは…何なんですか…またねと言ったり、もう会わないと手紙を残したり、戻ってきたり…私をからかっているんですか?」 その両手で涙を拭うかのように自分の顔につけた。 また会えて嬉しいのに、それなのに色んな感情が脳内を駆け巡って。 離れた方がいいはずなのに―… 「私は…あなたを愛してはいけない。雅彦様の死を受け入れてはいけない。生きていてはいけ―…」 「うるさいよ、少し黙って」 雅様は抱きしめていた手を放し、私の顔を掴んでキスをした。 「父さんだったら、エリックが生きていて、俺が生きていてよかったと言うはずだよ」 そして再び私を抱きしめて耳元で囁く。 「本当はこの3年、捨てられたんだと君を憎んで会ったら怒鳴ってやろうと思ってたんだ。でもダメだった。見た瞬間、それがすぐに愛で上書きされて―…この3年、エリックを想わなかった日は無い」 私は振り返って雅様を見つめた。 あぁ、本当に戻ってきてくれたんだ。 私の目の前に愛しい人がいると分かり、涙が加速する。 「あんな別れ方をしたのに私を想っていたなんて。…おかしな人だ」 雅様の愛を知っていてあんな別れ方をしたのに、あの左手の指輪の刻印が私の名前だったことが嬉しくて嬉しくてたまらない。 「俺はもうずっと…10年以上エリックを思っている。だから責任とって」 「どうしろと?」 「残りの人生、俺を愛して」 「…」 その条件は簡単なのに、私を悩ませる。 私と一緒にいたら、また雅様はフラッシュバックしてしまうかもしれない。 あの苦しみは本人にしか分からないだろうから。 自分の気持ちを優先したいが、どうすれば―… 雅様は黙る私に数秒間キスをして、口を放したあとにお互いの額をつけて言った。 「嫌ならもう生涯君には会わない。もう二度とエリックの前には現れない。俺の幸せはエリックの幸せだから。エリックはどうしたら幸せになれる?俺がいなくても幸せ?」 「ずるい人だ。私の気持ちを知っておきながら―…」 そう言って、今度は私から雅様にキスをする。 舌を絡める音と、口から漏れる吐息と、時計の秒針の音だけがする空間。 これだけで幸せだ―… 「いいのでしょうか?私があなたを求めて、幸せになっても…」 「父さんに囚われた者同士、傷を舐め合っていこう」 「―…はい」 深い、深いキスの後、私たちは愛を確める。 「エリック、名前を呼んで」 「…雅」 「愛してるよエリック。もう俺をひとりにしないで…」 もう二度と呼ばれることの無いと思っていた名前。 もう二度と触れることが無いと思っていた唇。 ―…何があっても一生この方の傍に居たい 「私も…愛しています雅。私の…私の傍にいてください…」 「うん。離さないから、離れないで」 何度もキスをして、何度も抱き合って、朝になってお互いが隣にいることに幸せを感じた。 そして私は自分の父に報告をしたあと一度日本に行き、ソフィア様へ挨拶をすることにした。 「エリック…!元気だった?」 「はい、ご無沙汰しておりますソフィア様」 雅様が大学を辞めてダンサーになり、アメリカで共にへ暮らしたいと伝える。 そしていつか私と結婚をしたいということも報告をした。 「もちろん二人を応援するわ。雅を選んでくれてありがとうエリック」 「いいえソフィア様。私のほうこそ感謝しております」 テリーもアルベルトもソフィア様も私たちを祝福してくれた。 そして雅様は大学を辞め、22歳の5月アメリカへきた。

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