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第13話 離婚の原因

「はい」 「……」 「昨日ハルさんが言っていた、お兄さんが親の喧嘩中にハルさんに音楽を聞かせていたのは、会話を聞かせないためです」 「じゃあ兄は、親の喧嘩の理由を分かっていたんですね」 「はい。実はそのちょっと前にお母さんと喧嘩中のお父さんがある暴言を吐いて。それをハルさんは聞いてしまったんです。言葉の意味を理解してしまったハルさんは、そこから一時期何も話せなくなったそうです。泣くこともなく、笑うこともなく、一言も発しない時期が続いたそうです」 「それ……それ、全く覚えていないです」 「そのときからです」 「え?」 「そのときから、ハルさんの感じる力というか、機能に制限がかかったのは」 「……」 「ショックを受けたハルさんは、おそらく自分を守ろうとして本能的に感覚を遮断したんだと思います。お兄さんはその変化にも気づいていました。ハルさんはそれまでよく不思議なことをお兄さんに伝えていたのに、全く話さなくなったって。そのあと徐々に会話ができるようになっても、そういった類の発言だけはピタリと止まったそうです」 「そう……だったんですね。なんか……そうか……えっと……なんて言ったらいいか」 「そうですよね」 「……」 「……」 「なんか、……あは……あははは」 ハルは何をどう整理すればいいか分からなくなり、笑いが込み上げてきてしまった。 「タカさん、なんか、僕笑ってしまいます。あはははっ……そうだったんですね」 そんなハルをじっと見つめるタカ。 「こんな辛いこと、わざわざ本人に言う必要はないと僕は思ったんですけど……でもこの一連の出来事が、今のハルさんを苦しめていることと繋がっているみたいです」 「え……」 「ハルさんが昨日言っていた、自分を否定しながら生きていることに繋がっているんです。選択を誤っていつも自分を悪いほう悪いほうに向かわせるのも、自分の存在を否定してるからです。お兄さんは、さっき話したハルさんの過去が、今後ハルさんの足枷になることを予想していたんでしょうね。弟に会ったらこのことを伝えると言ってました」 「これは僕の経験から言うんですけど、僕たちみたいな人間はこの機能を駆使すると体だったり自分の人生や考え方に影響がでます。人より感度が良くも悪くも高いが故に。僕は呼吸器だけですけどね。お兄さんが当時どこまで察していたかは分かりませんが、ハルさんは思考を読めるくらいだったから、大人になったハルさんに影響及ぼさないか心配だったのかも」 「そう……なんですか」 「あと、ハルさんには知る権利があるって、何度も言っていましたね」 「……」 「真実って、それを伝えることで人を苦しめるくらいなら闇に葬っていいと僕は思うんですよ。真実ってときに残酷ですから。僕がいま伝えたことだってハルさんが傷つくのは分かりきっていました。けどお兄さんは、傷ついてもハルさんは知る必要があると思ったんでしょうね」 タカは、なぜハルの兄がそこまで弟想いなのか、理解できなかった。 「けどやっぱり、生まれ持った機能は失われないんですよ、ハルさん。ハルさんが人より勘が鋭かったり、自分でそういうの自覚しているということは、抗えない本能が元に戻りたがっているんだと思います」 「……」 「かなり辛いこと言ってますよね。すみません」 「あの、タカさん。じゃあこの流れで言うと、僕の親が離婚したのって……」 「……はい」 ハルは、自分の機能が原因で両親が離婚したことを知った。

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