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第25話 タカさんは、優しい人です
「タカさん。なんか、手伝ってくれてありがとうございます。あの、僕も何か自分でしたいんですけど何したらいいと思いますか」
「うーん。そうですよねー……」
タカが天井を見上げる。
「……」
そしてハルの方に目線を戻して笑顔で言う。
「分かりません」
「え、あはっ、はい」
「でも、何か方法はありますよ。さっき変化が起こったんですし。僕の方でも考えたいので少し時間をください」
「あ、ありがとうございます。僕も考えます!」
タカは笑顔で頷いた。
ハルはなんとなく、タカに頼りたい、タカに力になってほしい、そう思うようになっていた。
「こんな日が来るなんて、なんかすごいですね」
「こんな日?」
「はい。自分と同じようなタイプの人と突然会って、堂々とこういう話ができて。あ、別に話したくてうずうずしていたわけではないんです。ただ、こうやって共通の認識で話せているっての実感しながら話せることが、すごくこう……嬉しくて。相手がとりあえず話を聞いてくれる安心感、半端ないです」
「うんうん。言いたいこと、わかります」
「ありがとうございます」
「人って分からないことに遭遇すると不安な気持ちになります。できるだけ考えず、否定したりして、決めつけてしまったほうが心が楽になる。そりゃそうですよね。ましてや僕たちみたいなのが言うことは、目に見えない類だから。怪しさもあるし」
「はい……実は、感じたこととか胸騒ぎがあった時に、これは言ったほうがいいのかなって迷うこと、たまにあったんです。僕の勝手なお節介だと思うんですけどね。けど、あからさまに否定されるくらいなら言わないほうがいいかって思って。それに僕自身も確信をもっているわけじゃないから。……正直、もやっとはします」
「そうですか。優しいですねハルさんは。僕はもうそういうことは考えないようにしています」
「そうなんですか」
「言わないほうが良い場合もあると思うので。言うべきか、言わないべきかの正解は、言った直後の相手の反応でしか分からないじゃないですか」
「まあ……そう、ですよね」
「言って、ああよかった、と思えたらいいけどそれも自分の感情でしか判断できない。それは結果論だし、運とも言える気がします。逆に相手をひどく傷つけることだってある。知らせたことによる余波で不幸になる人がでてくることもある」
「ああ……はい」
「何が正解かはわかりません。だから、考えても仕方がない」
「……」
「僕がハルさんに過去のことを伝えたのは、お兄さんに頼まれたからであって、そうでなければ僕は何もしなかったと思います」
「……」
「傷つけると分かっていることなら尚更です」
「……」
「ハルさんが、今回いろいろ過去のこと知ってひどく傷ついて人生が悪い方向へ傾くことだってありえる。そう予測できた状態で、言う必要性って僕にはわからないです」
「あ、まあ、はい」
「だから、特別な理由がない限り介入しなくていい。余計なことは考えなくていい。僕はそう思っています」
「はい……」
「冷たく聞こえるかな」
「え、あ、いや、そんなことないです!」
ハルは強めの口調で言った。
胸が、喉の奥が苦しく感じ、なぜだか一瞬涙が出そうになった。自分の手に力が入り、少し声が震えた。
「ほんと、そんなことないです」
急に真剣な表情になるハルを見て、タカは驚いた表情をする。
「いや、そんな深刻そうな顔しないでください。肩の力を抜いて生きていきましょうってこと言いたかっただけです。適当に、ね」
「……」
「ハルさんがもし元の自分に戻ったら、人の気持ちを考えすぎないようにしてほしいなと、僕は思ってます」
「……」
「あ、僕もこうやって堂々と話せるのは嬉しいです。同種としての血が騒ぐというか。あはは」
「はあ……ありがとうございます」
ハルが自分の首を触る。
ニコっと笑うタカの目を、ハルは直視できずにいた。
そしてタカが目線を窓の外に向ける。
「タカさんは、ずっと親切に接してくれているし、優しいですよすごく……いろいろ。たぶんその優しさにタカさん本人が気づいてないだけで」
「いやいや、そりゃあ大切な友達の弟君ですから優しくもなりますって。ヒロと同じように大切に接しますよ。何があっても僕は味方です、って、重いか。あはは」
満面の笑みで答えるタカ。
ハルは、そういうことじゃない、と否定しようと思ったが、声に出せなかった。
「ああ、ありがとうございます。こんな慕われてるなんて、兄ってどんだけ幸せ者だったんだろう」
それに対して、タカは何も答えなかった。
2人はその後1時間ほど、お互いのことや近況を話し、そしてカフェを出た。
駅に着き、ハルが気になっていたことを聞く。
「そういえばタカさんって東京のどこらへんに住んでるんですか?」
「えっと、ここから電車で30分くらい……のとこかな」
具体的な駅名を、タカは言わなかった。
ハルは察して話題を変えた。
「そうですか。あっまた連絡とかしてもいいですか?」
「はい、もちろん。僕からもまた連絡しますね。あ、僕チャージしてから改札通るんで、ここで」
「分かりました。じゃあまた」
こうしてハルとタカの再会は終わった。
帰りの電車でタカは、ハルの兄が言った "弟と合うと思うんだよ" の言葉を思い出していた。
30分ほどで自宅マンションの最寄り駅に到着し、公園へ向かう。
そしてベンチに座り、サエにメールを送った。
「今、電話してもいい?」
数分後、サエのほうから電話がかかってきた。
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